ESGと経営財務 第5回 人的資本と経営財務

京都大学経営管理大学院・経済学部 教授 砂川 伸幸
京都大学経営管理大学院 客員准教授 日置 孝一

( 26頁)

1.人的資本の情報開示

ESG経営やサステナビリティ経営の観点から、人的資本の重要性を再認識し、人的資本に関する情報開示を促進する動きが強まっている。例えば、2021年に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、人的資本への投資について、補充原則3-1③と補充原則4-2②が追加された。それぞれ、以下の通りである。

補充原則3-1③
上場会社は、経営戦略の開示に当たって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべきである。また、人的資本や知的財産への投資等についても、自社の経営戦略・経営課題との整合性を意識しつつ分かりやすく具体的に情報を開示・提供すべきである。
補充原則4-2②
…(省略)…人的資本・知的財産への投資等の重要性に鑑み、これらをはじめとする経営資源の配分や、事業ポートフォリオに関する戦略の実行が、企業の持続的な成長に資するよう、実効的に監督を行うべきである。

岸田内閣の下で取組みが進められている「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画~人・技術・スタートアップへの投資の実現~」(2022年6月7日)においても、人的資本等の非財務情報の株式市場への開示強化と指針整...