小説 会計士日記 Episode 2
中岡 早雄
( 58頁)
20X1年3月4日
今朝はいつもより早く事務所に来て、7時からのれんの減損テストに取り掛かっている。とある3月決算の上場会社が米国の会社を買収したが、計画通りに利益が出ないため監査人からのれんの減損テストをするように求められ、うちに依頼してきたのだった。のれんの減損テストはこの案件を含めて2件同時並行で進んでいる。IFRSを導入する企業が増えて、こうした依頼が増えてきている。IFRSではのれんを償却しない代わりに原則として毎期減損テストを実施する必要があるからだ。
事業計画が昨日出てきたばかりだが、3月中に会計監査人による監査も終わらせて減損金額を確定しておきたい意向がクライアントにあり、明後日には計算結果を伝えないといけない...あまり時間がない。そのため、メールが飛び交う前や電話がかかってくる前にできるだけ作業を進めておきたかった。
9時少し前に玄関のドアが開く音がし、鈴木さんが出勤してきた。
「おはようございます。今日も朝早くからお仕事ですか?」
「ちょっとやることが溜まっているので、7時から仕事してます」
「相変わらずお忙しいですね」
「まぁ、そうですね」
忙しいのを察した鈴木さんはそれ以上話しか...
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