役員の報酬・賞与・慰労金の基本と実務Q&A<213> ある取締役と経営陣、大株主又は従業員等との確執と当該取締役解任の正当理由(2)

 弁護士 小林公明

( 48頁)

前回( 本誌No.3607 参照)に続き、質問に対する回答として、確執に関する裁判例の総括と会社側の対応につき述べる。

4 確執に関する裁判例の総括

このように、「確執」に関しては会社側の分が悪い。

もっとも、取締役の任期に対する期待だけを保護するのは均衡を欠き、取締役がその職務上の地位に基づき会社に対し負う誠実義務を考慮すれば、役員間の不仲は長い目で見れば会社の業務執行の障害となり得るし、当該役員を任用した会社にも当該役員の適正な任務態度に対する期待権があるはずであるとの趣旨の見解もあり得る(楠元純一郎「役員間の不仲だけでは取締役解任決議が『正当な理由』とはならないとされた事例」東洋法学第65巻第2号56頁は、会社が取締役に対し負う損害賠償金額の過失相殺につきこれを述べる)。

ただ、裁判例は、前述のように、確執(主観的な信頼関係喪失)だけでは正当理由とするに足りないことを基軸としつつ、当該取締役(監査役の場合も同様である)について、取締役の性格や行状に関する具体的事実が「会社内で勤務を継続していくことができない程の特段の問題点」(前掲東京地判昭57.12.23)の程度に達している(前記2(1)5...