書評 杉本 徳栄著『SEC 会計規制の政治力学』

(中央経済社/本体5,600円+税)

京都先端科学大学 国際学術研究院 特任教授 元パナソニック株式会社 理事 山田 浩史

( 28頁)

1.はじめに

本書は、米国の独立行政機関であるSEC(証券取引委員会)による公共政策としての規制措置が、立法機関(連邦議会による行政監視)、行政機関(大統領による政治任用)及び司法機関(最高裁判所等の判決)が行う政治によってどのような影響を受けて形成されるかについて、第一次資料をもとに解き明かしている。

著者の関西学院大学大学院の杉本徳栄教授は、会計規制及び会計基準開発の政治との関わりについての研究の第一人者で、前著『アメリカSECの会計政策』(2009年)に続いて、本書においてSECの会計規制の政治力学に関する論考が更に深められている。

SECは2024年に創設90周年を迎えたが、証券市場の規制において、今でも国際的にSECの存在感は絶大である。本書が分析・検討対象とするのは、1990年台後半からの重要かつ代表的なSECによる会計規制である。具体的には、(1)IFRS導入に向けた会計規制、(2)高頻度取引の監督強化規制、(3)四半期開示規制、及び(4)サステナビリティ情報の開示規制(主に気候関連開示規制)である。これらの試みの目的は、米国の権力分立のもとで、共和党と民主党という二大政党の政...