書評 辻山栄子編著 吉野真治・山崎尚・羽根佳祐著『財務会計』

(中央経済社/本体4,500円+税)

関西学院大学大学院 教授 杉本徳栄

( 30頁)

「辻山会計学」の待望のテキスト誕生である。読んでいて実に面白い。学びも数多い。

財務会計におけるルールを決めるのは、時の規制当局でも会計学の研究者でもなく、その時代の社会経済的な環境下にある企業の実務のなかで培われた会計慣行のベストプラクティスが集約されて実践規範となり、「一般に認められた会計原則(GAAP)」になるという。しかし、辻山栄子先生(早稲田大学名誉教授)は、国際基準開発への意見発信とともに、日本の企業会計の制度設計に重要な影響力を果たしているだけに、会計学の研究者の優れた論理や見解は、ルール設計上重要なファクターである。ブレず、常に切れ味がシャープで論理明快な「辻山セオリー」を本書の随所に散りばめた「ザ・財務会計」である。

日本の企業会計基準が伝統的に純利益情報を重視し、各々の法制度と密接不可分な制約のなかで調和を図りながら漸進的に進化してきた事実の重要性を読者に説く。この姿勢こそ辻山会計学の基本である。IFRS会計基準ないし米国会計基準をそのまま無批判的に国内基準化することはそれほど簡単なことではなく、「選択されてきた着地点」こそが日本の企業会計基準だと理解することの大切さを...