<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第144回 リース(23)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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袂(たもと)を分かつ

袂とは、和服の袖の下の袋状の所で、昔は懐(ふところ)と並んでポケットの代わりに持ち物を入れて持ち歩くために使われた。袂に入れておくものは手拭いや小銭など、すぐ取り出す必要があるもので、それほど貴重でないものが多い。これに対して懐には、財布や大事な手紙、あるいは護身用の刀である合口(あいくち)などを忍ばせた。このような使い分けがあったのは、袂は体から遠いからである。「袖の下」は賄賂のことであるが、そう言われるのは体から離れたところでこっそり渡すものだからである。相手の懐に飛び込んだが、袖にされた、というように、袖や袂は体の外側の部分を代表している。

この為、袖や袂は出会いや別れを象徴する言葉にもよく使われる。「袖すり合うも他生(たしょう)の縁」とは、道ですれ違って袖が触れ合う程度の、ほんのわずかな関わりでも、それは前世(他生)からの因縁によって起こることだという意味で、偶然の出会いであっても、せっかく知り合いになれたので、仲良くしましょうという意味になる。一方で「袂を分かつ」という言葉は、仲間と違う道を進むという意味になる。それは、袂を付け合うようにして一緒に歩んできた...