2026/03/19 9:55



人事部の皆さん、毎日の業務お疲れさまです。このシリーズでは、給与計算を担当する方々向けに、国際税務の一環としての源泉徴収の基礎的な考え方や取扱いをテーマにして、簡潔に説明していきます。今回は、非居住者(日本に住所がない社員)の源泉徴収に関係する日本の税法(国内法といいます)の基本的な仕組み見ていきます。
まず、前回までの復習です。居住者と非居住者の課税の違いの話ですが、次の表を覚えていますか?
社員が日本国内に生活の本拠地(住所)を持っていれば「居住者」(日本に住んでいる人)、持っていなければ「非居住者」(日本に住んでいない人)です。1年を超えて海外で勤務する出向者は、普通は非居住者になります。そして、どちらに該当するかで、日本国で課税になる収入の範囲が大きく違ってきます。
居住者の社員は、どの国で働こうとどこから給与をもらおうと、すべての給与が日本で課税されますが、非居住者の社員は、給与の中で「国内源泉所得」に当たる金額だけが日本で課税されます。
国内法には、「給与のうち、国内において行う勤務に基因するものは国内源泉所得となる」と定められています。
非居住者である海外出向者が海外だけで働いている限り、「国内勤務に基因する給与」はありません。したがって国内源泉所得は発生しないので、給与は日本で課税されません。しかし、その出向者が日本国内で一時的に働くと、給与の中に国内源泉所得の部分が生じてくることになります。
この場合の給与は、出向先が支払うものには限りません。いずれ日本に戻ることが予定されている海外出向者は、一般的には親会社との雇用契約も続いています。その場合、海外出向者への給与は、海外子会社が海外で支払うもののほかに、日本の出向元が国内で支払うもの(留守宅手当や給与の格差補填金など)もありますが、ここからも国内源泉所得が生じてくるのです。
では、非居住者に支払われる給与のうち、国内源泉所得となる金額はどのように計算するのでしょうか? そう。ご想像のとおり、基本は「日数按分」です。
ここで、非居住者の社員・弥生さんの簡単な例で考えてみます。
| 例1 | 例2 | |
| (1)イタリアで払う給与の国内源泉所得 | なし | 600,000円× 20日/30日 = 400,000円 |
| (2)日本で払う給与の国内源泉所得 | なし | 150,000円× 20日/30日 = 100,000円 |
非居住者は、日本国内で働かない限り、給与がどこで支払われても国内源泉所得は発生しません。ですから、例1では国内源泉所得は発生しません。
これに対して例2では、日本で勤務した期間がありますので国内源泉所得が発生します。その金額は、(1)と(2)の合計500,000円になります。国外と国内の両方で給与をもらっている非居住者が一時的に国内で勤務すれば、どちらの給与にも「国内源泉所得」に該当する金額が生じてくるということです。
国内源泉所得となる給与の税率は、20.42%です。
居住者の給与の源泉徴収は、源泉徴収税額表の甲欄や乙欄を使って計算しますが、そこには給与所得控除額や一定の所得控除の金額が反映されています。一方で、非居住者の源泉徴収の場合には、単純に国内源泉所得の金額に税率を乗じて税額を計算します。これは、その給与が国内払いでも国外払いでも同じです。
例2では、弥生さんの日本での税金は次のように計算され、合計で102,100円になります。
| (1)イタリアで払う給与の税額 | 国内源泉所得400,000円 × 20.42% = 81,680円 |
| (2)日本で払う給与の税額 | 国内源泉所得100,000円 × 20.42% = 20,420円 |
例2では、親会社が払う給与の国内源泉所得100,000円に対する税金20,420円は、国内払なので支払者である親会社に源泉徴収義務が生じます。
親会社は、先月は留守宅手当150,000円を、源泉徴収なしで弥生さんの国内口座に振り込みました。しかし今月は、税金を引いた後の129,580円を振り込み、税金20,420円は来月10日までに税務署に納付する必要があります。
これに対して、イタリア子会社が支払う給与の国内源泉所得400,000円は国外払いですから、日本の税法が適用されず、税額の81,680円は源泉徴収ができません。それでも、税法は課税を諦めません。このような場合には、「非居住者(弥生さん)がその国内源泉所得を自分で申告して税金を納付すること」という規定が置かれています。何と厳しい! 給与担当者は、このような場合のアドバイスも求められるかもしれません。(申告納税については、後の回でも説明します。)
しかし、ここでいいニュースがあります。
ここまで述べてきた厳しい課税は、あくまでも国内法(その正体は所得税法)の規定によるものです。しかし実際には、国内法のほかに「租税条約」というものがあります。
もし、非居住者が住んでいる国と日本の間に租税条約がなければ、上記の国内法の規定(親会社の源泉徴収と非居住者自身による申告納税)が適用されます。
これに対して、2国間に租税条約がある場合は、国内法による源泉徴収や申告納税のうちの相当部分が免除になります。そして、弥生さんの住むイタリアと日本の間には租税条約がありますので、弥生さんの課税は、上記の国内法の内容とは異なる結果になるのです。
次回は、租税条約がどのように国内法の課税を修正し、和らげるかについて整理します。
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