【会計・監査と新型肺炎⑥】JICPA・東証 ウイルス拡大を受け対応方針等を公表

 新型コロナウイルス感染拡大や拡大防止対策により、企業や監査人の事業活動に影響が出ている。この現状を受け、日本公認会計士協会(JICPA)は3月18日、「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その1)」と題する文書を発出した。新型コロナウイルス拡大防止対策により、企業や監査人の事業活動に影響が出ている現状を受け、監査手続に係る留意事項や、既に決算日を迎えた企業の監査対応などをまとめている。今後も状況の変化により、留意すべき事項が追加で生じる可能性もあるという。
 また、東京証券取引所も同日、「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針の概要」を公表。上場会社に対しては、適時開示と上場廃止に係る対応を箇条書きにしてまとめた。新型コロナウイルス感染症の影響で債務超過になった場合は、上場廃止基準における改善期間を1年から2年に延長する方向。また、監査報告書の監査意見が「意見不表明」であったり、事業活動が停止したりする状況でも、それらが新型コロナウイルスの影響による場合は、上場廃止基準抵触の対象外とする。東証はこうした対応を、東日本大震災や熊本地震の発生時にもとっていた(「週刊経営財務」3月30日号より)。

JICPA
監査スケジュールの確認を
 全国的に新型コロナの感染拡大や、その防止対策の広がりにより、企業の事業活動はもちろん、監査人にも影響が及んでいる。監査のスケジュールは既に対応策が示されており、金融商品取引法については、やむを得ない理由により有価証券報告書等の期限までに提出できない場合、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められている(No.3445・3頁)。会社法についても株主総会の開催時期についての資料が公表されている(No.3448・4頁)。発出文書では「十分かつ適切な監査証拠を入手するための監査手続の進捗状況によっては、今後の監査スケジュールを再度検討し、監査報告書の提出日を見直す必要がある点に留意が必要」だとしている。

代替的な監査手続も示す
 監査手続に係る留意事項としては、「実地棚卸の立会」、「残高確認」、「監査証拠の信頼性」、「グループ監査」を取り上げている。実地棚卸の立会については、実地棚卸が期末日後に実施されることが想定されるとして、その場合には、「実地棚卸日と期末日における棚卸資産の増減が適切に記録されているかどうかについて監査証拠を入手するための監査手続を実施しなければならない点に留意する必要がある」(監基報501第4項)とした。監査人が立会を実施することが不可能な場合は、実地棚卸日以前に取得・購入した特定の棚卸品目について、実地棚卸日後に販売されたことを示す記録や文書を閲覧するなど、代替的な監査手続による対応を示している。
 ほか、被監査会社への往査が制限される場合は、監査証拠をPDFなどの電子媒体に変更したものなどを監査人が利用するケースがあるとして、情報が変更される可能性や、必要と判断する場合は追加の監査証拠を入手する手続きを実施することなどに留意する必要がある。
いずれにせよ、十分かつ適切な監査証拠を入手する上で代替的な手続きが可能か、または十分かどうか、企業側の実態を踏まえて監査人が判断する必要がありそうだ。

東証
上場会社への対応
 東証が公表した「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針の概要」(3月18日)によると、上場会社に対して以下の対応を図る。

●上場会社を対象とした対応(東証「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた対応方針の概要」より)

適時開示 新型コロナウイルス感染症の拡大が事業活動・経営成績に与える影響に関して、適時・適切な開示を要請
業績予想 前提条件や修正時の理由等に関する記載の充実
決算短信 リスク情報の積極的な開示(周知済み:決算発表時期の柔軟化及び影響判明時の適時開示、株主総会の基準日変更の場合の留意事項)
上場廃止 債務超過 新型コロナウイルス感染症の影響により債務超過となった場合を想定し、上場廃止基準における改善期間を延長(1年→2年)(2020年3月期からの適用を想定)
指定替え基準においても、1年間の改善期間を設定
意見不表明、
事業活動の停止
新型コロナウイルス感染症の影響による場合は対象外


意見不表明への懸念
 すでにウイルスの感染拡大が広範に影響しており、未だそのピークが見えないため今後の決算作業や監査について「過去の災害時と比べてみてもさらに大変」との声が出始めている。欧米の状況も踏まえると、今後、「意見不表明」の会社がでてきても不思議ではないとの指摘もある。
 日本公認会計士協会(手塚正彦会長)は、東証が対応方針を公表した日に「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その1)」を公表し、監査手続きに係る留意点などの周知を図った。実地棚卸の立会の代替的な手続き等を示すものの、それすらできない場合はやはり監査意見への影響評価が求められる。
東証の対応は、仮に「意見不表明」であっても、それが新型コロナウイルスの影響のせいであれば上場廃止基準に抵触しないとする取扱いだ。同様の取扱いは東日本大震災や熊本地震の際もとられていたが実際に「意見不表明」が出されることはなかった。ウイルスによる3月期決算会社への影響がどう変化していくのか慎重に見ておく必要がある。

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