【会計・監査と新型肺炎⑫】会計上の見積り,コロナ「追加情報」の好事例~影響項目や金額,収束時期などの仮定を記載

 金融庁の「新型コロナ対応連絡協議会」で状況を共有したように,会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響について,ASBJはその考え方を議事録として公表(4月10日)し,5月11日にはこれを補足した。「追補」の公表は,3月期決算会社の短信において「議事録が想定した追加情報の開示がみられない」ことから生じた懸念への対応であり,今後の法定開示に向けて発信したもの。上場企業に対して新型コロナの影響に関する追加情報の開示を重ねて促している。一方,企業側からは「何らかの情報が必要なのは分かっている。どう書けばいいのか」との声も聞こえてくる。そこで本誌は追加情報として検討・記載すべきポイントを整理し,参考になる記載事例を調査した。なお,金融庁は5月21日に「新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について」を公表し、当該追加情報の開示についても、令和2年度有価証券報告書レビューの対象に含めて審査すること等を示している。

コロナ関連追加情報の検討ポイント
 議事概要(追補)の内容は既報(本誌No.3454,3457)のとおり。「重要性がある場合」には,新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に関する追加情報の開示が強く望まれている。議事概要(追補)等から,求められる情報を分かりやすく具体的に開示するためのポイントや記載内容を確認しておきたい。

  • ①単なる業績への影響ではなく,会計上の見積りを行った項目が財表に影響するかどうか
    ― 影響を受ける財務諸表項目を明示しているか(固定資産の減損,繰延税金資産の回収可能性,貸倒引当金等)
  • ②当期だけでなく次期の財表に重要な影響を及ぼすリスクの有無
    ― 自社のビジネスに照らしてどのような影響を受けるかを説明しているか(例:休業店舗等があればその期間はCFが見込まれないことの説明,債権の回収可能性が低下するおそれがあればその旨を説明等)
    ― 必要があれば,例えば,事業別,地域別の区分ごとに影響または不確実性の度合いを説明しているか
    ― 帰結が見積りと乖離した場合に次期の財表にどのような影響が出るかを説明しているか(例:実際の貸倒れが想定以上となった場合に,次期以降に追加損失が計上される等)
  • ③仮定についての記載

― 上記の見積りに使用している重要な仮定を示したうえで,それらをどう見積もったのかを説明しているか(収束時期,制限解除後の回復度合等)
― 見積りが困難で帰結が異なる可能性(不確実性)が高いのであれば,その状況を伝えているか

記載事例
 ASBJ本委員会では「議事概要に沿うような開示がほとんど見られない」との指摘があったが,短信上の記載はゼロではない。本誌が調べたところ,短信において財表に関する注記事項の「追加情報」として新型コロナウイルスの影響を記載した例(日本基準適用会社)は11件あった(5月18日時点)※。その中でも,上記のようなポイントに照らしても好事例であると評価できる記載は次のとおり。
 証券アナリスト等はこれらの事例について「よく理解できる好ましい記載だ。会社によって状況は異なるだろうが,これらの事例を参考に,各社それぞれの状況に照らして情報を出していってほしい」と,今後の開示に向けて期待感を示した。

【事例1】新生銀行(東一,銀行業,ト−マツ) (5月13日公表)

(新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響拡大に伴う貸倒引当金の追加計上)
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大やそれに伴う経済活動停滞による影響は今後1年程度続くものと想定し,特に当行及び一部の連結子会社の特定業種向け貸出金等の信用リスクに大きな影響があるとの仮定を置いております。こうした仮定のもと,当該影響により予想される損失に備えるため,特定債務者の債務者区分を足許の業績悪化の状況を踏まえて修正するとともに,特定業種ポートフォリオの貸倒実績に予想される業績悪化の状況に基づく修正を加えた予想損失率によって,貸倒引当金7,011百万円を追加計上しております。なお,当該金額は現時点の最善の見積りであるものの見積りに用いた仮定の不確実性は高く,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染状況やその経済環境への影響が変化した場合には,翌年度の連結財務諸表において当該貸倒引当金は増減する可能性があります。


【事例2】シーボン(東一,化学,トーマツ) (5月15日公表)

 当社は,固定資産の減損損失の算定において,新型コロナウイルス感染症の感染拡大による企業活動への影響を以下の仮定を元に将来キャッシュ・フローを算定しており,この結果,回収が見込めない固定資産において286,485千円の減損損失を計上しております。新型コロナウイルス感染症の収束時期は不透明であり,以下の仮定が見込まれなくなった場合には固定資産の減損損失が今後増加する可能性があります。
①新規顧客への販売活動
2月下旬より協賛イベントが中止となり,緊急事態宣言発令後は全てのイベントプロモーションを自粛しておりますが,6月以降徐々に再開し,新規来店者数は10月に前年水準まで回復すると見込んでおります。
②既存顧客への販売活動
緊急事態宣言発令後,13緊急警戒都道府県にて直営店を臨時休業あるいはアフターサービスの提供を自粛したフロント営業を実施し,ゴールデンウィーク期間(4月29日~5月6日)は全直営店が臨時休業しておりましたが,5月中旬にほぼ全ての店舗が営業を再開し,継続数が前年水準まで回復するのは2021年1月までかかると見込んでおります。


【事例3】 ロイヤルホテル(東二,サービス業,あずさ) (5月13日公表)

(繰延税金資産の追加計上について)
 「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」に基づき,繰延税金資産の回収可能性について慎重に検討した結果,当第1四半期に繰延税金資産を追加計上いたしました。
 新型コロナウイルスの影響を反映した今後の業績見通し及び将来収益力等を勘案し,引き続き繰延税金資産を計上しています。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響は,2020年度の上期中に収束し下期から回復に向かい,
 2021年度には例年並の需要が見込まれることを前提としています。
これに伴い,当連結会計年度において,法人税等調整額(益)を1,556百万円計上いたしました。

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