東京都内では8人に1人が相続税の課税対象!黄金の仏像は節税に使えるのか?

先日、相続税土地評価のベースとなる令和初の路線価が公表され、都市部を中心に引き続き上昇傾向となりました。

相続税の基礎控除が大幅に引き下げられた平成27年1月以前は、亡くなった方の25人に1人しか相続税の課税対象にはなっていませんでしたが、その後は毎年のように課税割合が上昇し、今ではおよそ12人に1人が相続税を払わなくてはならなくなっています。とりわけ、もともと納税者が多い東京などでは、平均しても亡くなった方の8人に1人が課税の対象になっており、特に地価の高い都心部ではもっと高い割合で相続税が課されているようです。

こうなるとどうしても相続税の節税に関心が集まります。節税策には様々なものがありますが、一風変わったところでは「墓所」が相続税の非課税財産であることに着目して豪華なお墓を作って節税といった話もあるようです。お墓だけではさほどの節税にならないとおっしゃいますか?では、純金の仏像で節税と言ったらどうでしょうか?今回はそんな話をご紹介します。


現金などの課税財産を「非課税財産」に変えて行う相続税の節税

平成25年の相続税改正は、それまで「基礎控除5000万円プラス法定相続人一人当たり1000万円」とされていた課税最低限を「基礎控除3000万円プラス法定相続人一人当たり600万円」に大幅に引き下げ平成27年から適用することとしました。ごく簡単に言えば、旦那さんの死亡で奥さんと子供2人が残された場合、それまでは遺産8000万円まで無税だったものが、4800万円を超えれば相続税の課税対象になる計算です。

この改正の結果、それまで亡くなった方の4%程度だった相続税の課税対象者(被相続人ベース)が一挙に8%にまで上昇しました。以後もこの割合は上昇を続け、直近では8.3%になっています。さらに、東京国税局管内では全国平均を上回る13.2%の方が相続税の対象となっていますが、同じ東京国税局管内でも23区内ではさらに高い課税割合になっているだろうというのは衆目の一致するところです。

こうした状況を受けて税務の専門家が積極的に相続税節税をPRしています。いわゆる財産隠しなどはれっきとした脱法行為ですが、相続税の節税自体はあくまで合法的な範囲であれば何ら問題はありません。

相続税の節税のポイントは、まず、現金は「モノ」に変えることだといわれています。例えば、買った当時は「億ション」と言われたようなマンションでも何年もすれば価値は下がってゆきます。2億円を現金で持っていれば相続税の計算では財産が2億円のままですが、購入から数年経過したマンションであれば評価額はよくて7割くらいでしょう。相続税の財産とすれば、2億円の3割に当たる6000万円の課税財産減少イコールその分の相続税額が減少する計算になります。


相続税法第12条やその取り扱い通達では「仏像・仏具」も非課税財産としているが

ただし、こうした方法では相続税額は減るものの、遺族に残すモノの価値も減ってしまうことになります。かといって現金のままでは相続税額が高くなる。何か良い手はないものか?といったところで出てくるのがお墓などは相続税の課税財産とはされていない点に目を付けた一種の節税策です。その根拠になるのが次に紹介する相続税法第12条の規定です(一部抜粋)。

第十二条 次に掲げる財産の価額は、相続税の課税価格に算入しない。
二 墓所、霊びよう及び祭具並びにこれらに準ずるもの


またここで言っている「これらに準ずるもの」の具体例として、相続税法取扱通達では、次のような例を示しています。

12-2 法第12条第1項第2号に規定する「これらに準ずるもの」とは、庭内神し、神たな、神体、神具、仏壇、位はい、仏像、仏具、古墳等で日常礼拝の用に供しているものをいうのであるが、商品、骨とう品又は投資の対象として所有するものはこれに含まれないものとする。



「金」なら価値が減らないとはいうものの

節税対策としてマンションを買ってもマンションそのものの価値は減少してしまいます。

では、価値が減らないものの代表的なものとされている「金」を購入すればどうでしょうか。もちろん、ただ単に金を買っても「金」の価値はほぼ変わらないどころか長期的には上がるのが一般的ですが、買った金額がそのまま相続財産になってしまい、節税の観点からは何の意味もありません。

しかし、ここで紹介した法律などにあるように金でできた仏像や仏具を購入したらどうでしょうか。

ご存じのように、金製品はとかせば元の金に戻ります。その昔のエジプトのピラミッド荒らしも盗み出したファラオの金製品を溶かして金に戻して売りさばいていたといいます。

では実際に現代の日本において、金の仏像を相続対策として購入し、当人が亡くなった後に遺族が現金化しようとした場合、どのような方法が考えられるでしょうか。

1. 仏像を溶かしインゴット(ゴールドバー)にして売りさばく場合
⇒そもそも仏像を溶かしてインゴット(ゴールドバー)のような形にすること自体、一般庶民にとっては相当にハードルが高いでしょう。また、金の仏像は精緻な作りであることも多く、加工費などにもそれなりの金額が掛かっています。そのため金の状態に戻してしまったら買った金額の半値以下になってしまうことなども十分考えられます。
なお、相続税法取り扱い通達に例示されている通り、非課税となる仏具はあくまでも「日常礼拝の用に供しているもの」とされています。なぜ金の仏像なのか?本当に日常礼拝の用に供しているのか?税務調査で確認される可能性があります。

2. 仏像をそのままの状態で売りさばく場合
⇒最近はフリマアプリやインターネット上での物品販売が以前に比べて手軽になっています。とはいえ、フリマアプリで本物かどうかも怪しい金の仏像を購入しようと思う人がどれだけいるかと考えると、現実的にはネット上の仏像買取り専門店や街の質屋などで買取ってもらうことになるでしょう。仮にこれらの方法で金の仏像を無事現金化できたとしても、上記通達12-2には「投資の対象として所有するものはこれに含まない」と明記されていますので、相続直後に仏具を売って現金にする行為自体が「金の仏像は投資の対象である」と判断されてしまう恐れもあるでしょう。

上記の通り、どちらの方法でも課税リスクは残りそうなことがお分かり頂けたかと思います。

どのような節税方法も課税リスクをゼロにすることは難しいですが、それよりもここで重要なのは、これらの現金化行為は当人が亡くなってから「遺族が行う必要のある行為」という点です。

遺産を相続する遺族は40-50代の現役世代であることがほとんどで (配偶者を除く)、当然ながら社会的信用が大事であると考えている世代でもあります。トラブルの元となるリスクはできるだけ保有しておきたくないというのが正直な気持ちでしょう。彼ら彼女らにとって、この金の仏像を相続することが、課税リスクという、いわば負の遺産までも "相続"してしまったという気持ちになることは容易に想像がつくところです。

残された遺族に少しでもお金を残したいと考えているのであれば他の方法を検討した方が無難かもしれません。


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