2019/10/30 11:40
雑損控除とは |
先日の台風19号は各地に大きな被害をもたらしました。被害に遭われた方々には心よりお見舞い申し上げます。
ところで、このような災害はいつ何時・誰に襲い掛かるやもしれませんが、災害にあって被害を受けてしまった場合、特に、個人の方には税金面での救済措置はあまり多くないのが実情です。色々調べてみても出てくるものは「雑損控除」や「災害減免法」くらい。しかもその内容たるや被害額の算定といった専門的な内容が多く、普段税金に縁の薄い人には近寄りにくいものとなっています。
しかし、実は国税庁では、こうした場合に比較的簡単に被害額を算定して税金面での手当てを受けられるような仕組みを作っています。 被害を受けた家財道具の金額などなかなか分かるものではありませんが、この仕組みを使うと、例えば、40代夫婦・子2人(子は18歳以下の場合)家族の家財道具の額は1,260万円という金額がすぐに出てきます。これに被害割合を乗じたものが雑損控除計算上の被害額ということになります。もし万が一災害にあった時のためにこうした制度の概要を知っておくことも無駄にはならないでしょう。今回はその辺りの話を紹介します。
会社や個人事業主の方が災害被害にあった場合には、被害機械等の損失計上や納期の延長など様々な特例が設けられています。これに対して、一般サラリーマン等の個人の方が災害被害を受けた場合、税金面での優遇措置は所得税の「雑損控除」と「災害減免法」による所得税の軽減免除くらいしかないのが実情です。
「雑損控除」は「損失額-所得金額の10%」か「損失額のうちの災害関連支出金額-5万円」のうちいずれか多い金額を、災害を受けた年の所得金額から控除(マイナス)するものです。その年の所得金額からマイナスしきれない金額があるときには、その金額を最大3年間繰り越して各年の所得・税金を減らすことができます。
一方の災害減免法による所得税の軽減免除は、その年分の所得金額が1,000万円以下の場合に、所得金額に応じてその年に限って所得税と復興特別所得税額を軽減・免除するというものです。
被害額等にもよりますが、最大で3年間の控除が受けられることなどから、一般的には「雑損控除」を受けるほうが有利だといわれています。
所得税法(雑損控除) | 災害減免法(税金の軽減免除) | |||||||||
対象となる資産の範囲等 | 生活に通常必要な資産 | 住宅又は家財の損失額が、その価額の2分の1以上である場合 | ||||||||
控除額の計算 又は 所得税及び復興特別所得税の軽減額 | 控除額は①と②のうちいずれか多い金額 ①損失額-所得金額の10% ②損失額のうち災害関連支出の金額-5万円 |
軽減額等
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有利と言われる雑損控除ですが、その適用を受けるための最大の難関が先の式に示されている「損失額」の算定です。
今回の台風で被害にあわれた方々の状況を映したテレビ画面には、水につかって捨てるしかなくなった様々な家財道具の山が映し出されています。雑損控除を受けるにはこうした家財道具の「損失額」を計算しなければならないとされています。税金の申告は少し先のことですが、その時のために、今、後片付けに追われている方々がいちいちダメになった電化製品の購入価額などをチェックできるはずなどありません。
かといって、雑損控除の申告をするときになって改めて一つ一つ思い出せというのも無理な話でしょう。
そこで、国税庁では、こうした場合には「損失額の合理的な計算方法」を使って損失額を計算してかまわないと言っているのです。この計算は大きく分けて
1 住宅 2 家財 3 車両
の3項目について設けられています。
このうち2の「家財」については次のように年齢や家族構成によって家財の額を定めています。
家族構成別家財評価額
世帯主の年齢 | 夫婦 | 独身 |
歳 ~ 29 |
万円 500 |
万円
|
30 ~ 39 | 800 | |
40 ~ 49 | 1,100 | |
50~ | 1,150 |
(注) 大人(年齢18歳以上)1名につき130万円加算、子供(年齢18歳未満)1名につき80万円を加算します。
文中で紹介している40代夫婦・18際未満の子供2人のケースは1,100+80+80=1,260万円が家財道具の金額となるわけです。雑損控除の対象となる損失額を計算するには、この金額に「被害割合」を乗じる必要があります。例えば、被害割合が80%であれば1,260×80%で1,008万円が損失額ということになります。
国税庁が定めている「損失額の合理的な計算方法」には、この他にも肝心かなめともいえる「被害割合」の算定表も含まれています。家屋が全壊した場合の被害割合は100%、半壊なら50%といった割合を細かく定めたものです。
一方で災害関連の支出をしなかった場合など、被害の証明に当たって必要とされている、自治体発行の「罹災証明書」というものがありますが、ここで注意していただきたいのは、上記の判定は国税庁が雑損控除被害額算定のために設けたもので、「罹災証明書」の判定基準とは同一のものではない点です。
一見すると国税庁の判定のほうが緩くなっていますので、雑損控除適用の際には必ず、国税庁の判定表をご覧になってください。
◆国税庁パンフレット
「災害により被害を受けられた方へ(所得税及び復興特別所得税関係)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/saigai/h30/0018008-045/pdf/fukko-tokubetsu.pdf