連載コラム│実務現場から探る非上場株式評価のゆくえ【第4回】
はじめての方は 基礎から学ぶ 制度の全体像 もあわせてご覧ください。
第4回:残余利益方式は法人税申告書を基に算定する
│街の税理士事務所で、オーノ先生とゴローくんが繰り広げる"井戸端会議"。
│取引相場のない株式の評価を巡るつぶやきをゆるっとお届けします。

オーノ先生:残余利益方式について、もう少し細かく見てみよう。基本的には、残余利益方式は、「直前期末の簿価純資産額」に「企業の収益獲得能力」を加える考え方だ。単純化すると、次の算式になる。
評価額=(直前期末の簿価純資産額(D₀)+5年分の残余利益の現在価値)×しんしゃく率(α)
各期の残余利益=利益(C)-(前期末の簿価純資産額-配当(B))×期待収益率(rₑ)
ゴローくん:残余利益は利益だけで計算できないんですね。
オーノ先生:株主が期待する利益を超えた部分が「残余利益」。将来の簿価純資産額は、毎年、利益から配当を差し引いた分だけ増減する。配当は、翌期の残余利益を計算する際の純資産額に反映されるというわけだね。
ゴローくん:会社について必要な基本の数字は、簿価純資産額(D₀)、利益(C)、配当(B)の3つですね。それに期待収益率(rₑ)と、しんしゃく率(α)を使うわけですか。
オーノ先生:そう。期待収益率(rₑ)と、しんしゃく率(α)は、制度上定められるようだ。期待収益率は一律に定めるようだが、これはどうかなとはちょっと思うよ。企業のリスクは業種などによって違うからね。
ゴローくん:株主の期待まで国税庁が決めてくれるのですか。僕の仕事の期待収益率も、少し低めに設定してほしいです(笑)。では、会社の数字はどこから拾うんですか。
オーノ先生:法人税申告書を基に算定する案が示されている。直前期末の簿価純資産額は、法人税法上の「資本金等の額」と「利益積立金額」の合計額。これは、別表五(一)から確認できるよね。配当も、本来は将来の予測値を使うところだけれど、過去5年間の年平均配当金額を使う案になっているよ。
ゴローくん:できるだけ法人税申告書の数字で計算できるようにするんですね。申告書が株価まで答えてくれる。ずいぶん出世したものです。
オーノ先生:毎年あれだけ苦労して作っているんだから、もうひと仕事してもらおうということかもしれないね。ただ、使用する利益の取り方には、確認しておきたい点がある。将来の利益を予測するために、過去5年間の実績の年平均を基に、継続的に生じると見込まれない損益を調整した「正常利益」を使う方向だ。
ゴローくん:有識者会議の第6回資料の5ページには、「将来予測で用いるのは別表四52①」と書いてあります。それなら、その所得金額を使えば楽チンですね。
オーノ先生:「楽チン」と思ったところで立ち止まるのが、税務のたしなみだね。資料の記載はそうなっている。ただ、そのページでクリーンサープラス関係を説明するために計算している「当期純利益」は、別表四52①の金額とは異なるんだ。具体的には、別表四52②の留保欄の金額に配当を加え、法人税・地方法人税と住民税を差し引いている。その利益を期首純資産に加え、配当を差し引くと、期末純資産に一致することを示している。
ゴローくん:将来予測に使う利益と、純資産の増減を説明する利益が違うのですね。
オーノ先生:そう。だから、これがどうなるかは注目ポイントのひとつ。別表四52①の所得金額は、社外流出を含む総額。それをそのまま使うのか、法人税等を差し引くのか、社外流出項目をどう調整するのか。残余利益の計算と、将来の純資産額の計算が整合するように、利益の定義を明確にしてもらいたいものだね。
ゴローくん:某税理士法人のサイトの試算ツールでは、社外流出項目や法人税等を調整していましたよ。
オーノ先生:そんな試算を見るときも、どの利益を使っているかを確認したほうがいいね。利益の取り方によって評価額は大きく変わるから。「申告書のどの欄を出発点に、何を調整するのか」が、今後の注目ポイント。
ゴローくん:申告書だけで計算できても、申告書を眺めるだけでは済まないんですね。
オーノ先生:そこまで楽になったら、我々の残余利益が心配になってくるよ(笑)。
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この記事を書いた人:
税理士・公認会計士 大野 貴史 氏
「自社株を、誰に、どう引き継ぐか」。企業オーナーの事業承継・相続には、税金の計算だけでは答えが出ない悩みがある。非上場株式の評価や相続・贈与の税務にくわえ、会社の経営や後継者のことも一緒に考えながら、事業承継を支援している。必要に応じて、組織再編成やM&Aも視野に入れ、会社と家族、それぞれに合う道を探る。法人・個人の税務のほか、IPO支援、M&A支援、財務・税務デューデリジェンスにも携わっている。
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