税務用語辞典


  • 令和3年度 税制改正対応版※令和3年4月1日現在の法令等によっています。

繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べ

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 法人が、次の損失の額(ヘッジ対象資産等損失額)を減少させるためにデリバティブ取引等を行った場合(時価ヘッジ処理の適用を受ける場合を除くものとし、ヘッジ対象資産等損失額を減少させるためにデリバティブ取引等を行った旨等を帳簿書類に記載した場合に限る。)には、そのデリバティブ取引等がヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であると認められるデリバティブ取引等の利益額又は損失額(デリバティブ取引等の決済によって生じた利益の額又は損失の額、仮想通貨信用取引のみなし決済損益額、有価証券の空売り等のみなし決済損益額、デリバティブ取引のみなし決済損益額、外貨建資産等の為替換算差額)(有効決済損益額)は、ヘッジ取引の対象である次の資産若しくは負債の譲渡若しくは消滅又は金銭の受取若しくは支払の日の属する事業年度までその計上を繰り延べる(法61の6①)。

  • (1) 資産(短期売買商品等(仮想通貨にあっては、市場仮想通貨に限る。)及び売買目的有価証券を除く。)又は負債の価額の変動(期末時換算をする外貨建資産等の為替変動に基因する変動を除く。)に伴って生ずるおそれのある損失
  • (2) 資産の取得若しくは譲渡、負債の発生若しくは消滅、金利の受取若しくは支払その他これらに準ずるものに係る決済により受け取ることとなる又は支払うこととなる金銭の額の変動に伴って生ずるおそれのある損失

備考

帳簿書類への記載要件については、規27の8①②参照。

左の繰り延べられた利益額又は損失額は、事業年度終了の時の負債又は資産の帳簿価額に含まれるものとして、各事業年度の所得の金額を計算する(令121の5④)。

〔適格分割等に係る繰延ヘッジ処理による利益額又は損失額の繰延べ〕

 法人が、ヘッジ対象資産等損失額を減少させるためにデリバティブ取引等を行った場合において、適格分割又は適格現物出資により分割承継法人又は被現物出資法人にそのデリバティブ取引等に係る契約を移転し、かつ、その適格分割等により上記(1)の資産若しくは負債の移転をし、又は上記(2)の金銭を分割承継法人等が受け取り、若しくは支払うこととなるときは、その適格分割等の日の前日を事業年度終了の日とした場合の有効決済損益額に相当する金額は、その適格分割等の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入しない(法61の6②)。

備考

左の繰り延べられた利益額又は損失額は、その適格分割等により移転する負債又は資産のその移転の直前の帳簿価額に含まれるものとして、その内国法人及び分割承継法人等の各事業年度の所得の金額を計算する(令121の5④)。

1 繰延ヘッジ処理の適用を受けるヘッジ取引の手段

 繰延ヘッジ処理の適用を受けるヘッジ取引の手段となるのは、次に掲げる取引(法人税法第61条の8第2項の適用を受ける場合における先物外国為替契約等に基づくものを除く。)とする(法61の6④)。

2 繰延ヘッジ処理におけるヘッジの有効性判定

 法人が行ったデリバティブ取引等がヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であるか否かの判定は、期末時(事業年度終了時(適格分割等に係る繰延ヘッジ処理適用の場合は、適格分割等の直前の時)までにデリバティブ取引等の決済をしていない場合)及び決済時(デリバティブ取引等の決済をした場合)において、次の方法により行う(令121①)。

  • (1) 資産又は負債に係るヘッジ対象資産等損失額を減少させるためにデリバティブ取引等を行った場合
      期末時又は決済時のデリバティブ取引等の利益額又は損失額とヘッジ対象資産等評価差額とを比較する方法
  • (2) 金銭に係るヘッジ対象資産等損失額を減少させるためにデリバティブ取引等を行った場合
      期末時又は決済時のデリバティブ取引等の利益額又は損失額とヘッジ対象金銭受払差額とを比較する方法

備考

繰延ヘッジ処理における特別な有効性判定方法等については、令121の4参照。

ヘッジ対象資産等評価差額とは、ヘッジ対象資産 等損失額を減少させようとする資産又は負債のデリバティブ取引等を行った時の価額と期末時又は決済時の価額との差額(金利の変動、外国為替の売買相場の変動等の特定事由による価額の変動に伴って生ずるおそれのある損失の額のみを減少させる目的でデリバティブ取引等を行い、かつ、デリバティブ取引等を行った日にその旨を帳簿書類に記載した場合には、その特定事由に係る部分の差額)をいう(令121②)。

ヘッジ対象金銭受払差額とは、ヘッジ対象資産等損失額を減少させようとする金銭のデリバティブ取引等を行った時に算出した額と期末時又は決済時に算出した額との差額(金利の変動、外国為替の売買相場の変動等の特定事由による価額の変動に伴って生ずるおそれのある損失の額のみを減少させる目的でデリバティブ取引等を行い、かつ、デリバティブ取引等を行った日にその旨を帳簿書類に記載した場合には、その特定事由に係る部分の差額)をいう(令121②)。

3 繰延ヘッジ処理におけるヘッジが有効であると認められる場合

 デリバティブ取引等がヘッジ対象資産等損失額を減少させるために有効であると認められる場合とは、デリバティブ取引等を行った時から当該事業年度終了の時までの間のいずれかの有効性判定において、次の割合がおおむね100分の80~100分の125までとなっている場合とする(令121の2)。

  • (1) 資産又は負債に係るヘッジ対象資産等損失額を減少させるためにデリバティブ取引等を行った場合
    • ① 資産の取引時価額(デリバティブ取引等を行った時の価額(特定事由による価額の変動に伴って生ずるおそれのある損失の額のみを減少させる目的でデリバティブ取引等を行った場合(価額の特定事由ヘッジの場合)には、特定事由に係る部分の額))が期末・決済時価額(期末時又は決済時の価額(価額の特定事由ヘッジの場合には、特定事由に係る部分の額))を超える場合 デリバティブ取引等の利益額をその超える部分の金額で除した割合
    • ② 資産の期末・決済時価額が取引時価額を超える場合
        デリバティブ取引等の損失額をその超える部分の金額で除した割合
    • ③ 負債の期末・決済時価額が取引時価額を超える場合
        デリバティブ取引等の利益額をその超える部分の金額で除した割合
    • ④ 負債の取引時価額が期末・決済時価額を超える場合
        デリバティブ取引等の損失額をその超える部分の金額で除した割合
  • (2) 金銭に係るヘッジ対象資産等損失額を減少させるためにデリバティブ取引等を行った場合
    • ① 受け取ることとなる金銭の取引時金額(デリバティブ取引等を行った時に算出した額(金銭の特定事由ヘッジの場合には、特定事由に係る部分の額))が期末・決済時金額(期末時又は決済時に算出した額(金銭の特定事由ヘッジの場合には、特定事由に係る部分の額))を超える場合 デリバティブ取引等の利益額をその超える部分の金額で除した割合
    • ② 受け取ることとなる金銭の期末・決済時金額が取引時金額を超える場合 デリバティブ取引の損失額をその超える部分の金額で除した割合
    • ③ 支払うこととなる金銭の期末・決済時金額が取引時金額を超える場合 デリバティブ取引等の利益額をその超える部分の金額で除した割合
    • ④ 支払うこととなる金銭の取引時金額が期末・決済時金額を超える場合 デリバティブ取引等の損失額をその超える部分の金額で除した割合

4 繰延ヘッジ処理におけるヘッジとして有効である部分の金額等

 繰延ヘッジ処理により繰り延べる金額は、デリバティブ取引等の利益額又は損失額(超過差額を益金の額又は損金の額に算入する旨を帳簿書類に記載した場合には、その利益額又は損失額から超過差額を控除した金額)に相当する金額とする(令121の3①)。

 内国法人が繰延ヘッジ処理の適用を受けている場合で、期末時又は決済時の有効性割合がおおむね100分の80から100分の125までとなっていないときは、有効性割合がおおむね100分の80から100分の125までとなっていた直近の有効性判定におけるデリバティブ取引等の利益額又は損失額(超過差額を益金の額又は損金の額に算入する旨を帳簿書類に記載している場合には、その利益額又は損失額から超過差額を控除した金額)と期末時又は決済時のデリバティブ取引等の利益額又は損失額との差額は、益金の額又は損金の額に算入する(令121の3④)。

備考

超過差額とは、デリバティブ取引等の利益額又は損失額のうち、有効性割合がおおむね100分の100から100分の125までとなった場合の100分の100からその有効性割合までの部分に相当する金額をいう(令121の3②)。

5 オプション取引を行った場合の繰延ヘッジ処理における有効性判定方法等

 オプション取引に係る有効性判定については、そのよることとされる法人税法施行令第121条第1項各号に定める方法(上記2(1)及び(2))に代えて、届出により次の方法により行うことができる(令121の3の2①)。

  • (1) 資産又は負債に係るヘッジ対象資産等損失額を減少させるためにオプション取引を行った場合
      期末時又は決済時のオプション取引に係る基礎商品変動差額とヘッジ対象資産等評価差額とを比較する方法
  • (2) 金銭に係るヘッジ対象資産等損失額を減少させるためにオプション取引を行った場合
      期末時又は決済時のオプション取引に係る受払金銭評価差額とヘッジ対象金銭受払差額とを比較する方法

備考

オプション取引とは、デリバティブ取引のうち、当事者の一方の意思表示により当事者間において金融商品の売買を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引又はこれに類似する取引をいう。

基礎商品変動差額とは、オプション取引に係る金融商品のそのオプション取引を行った時における価格とその期末時又は決済時における価格との差額をいい、受払金銭評価差額とは、オプション取引に係る金銭に相当するもののそのオプション取引を行った時のオプション取引に係る金融商品の利率等(金融商品の利率その他これに準ずる指標をいう。)に基づいて算出した額とその期末時又は決済時の金融商品の利率等に基づいて算出した額との差領をいう(令121の3の2②)。

届出書の記載事項については、規27の8⑦参照。

法人税法施行令第121条の3第4項の規定により益金の額又は損金の額に算入した金額に相当する金額については、翌事業年度の損金の額又は益金の額に算入し、洗替え処理を行う(令121の5②)。

6 繰延ヘッジ処理におけるデリバティブ取引等の決済損益額の計上時期等

 繰延ヘッジ処理により繰り延べたデリバティブ取引等の決済によって生じた利益の額又は損失の額(決済損益額)は、そのデリバティブ取引等によりヘッジ対象資産等損失額を減少させようとする資産若しくは負債の譲渡若しくは消滅又は金銭(その金銭の受取又は支払によって負債が発生し又は資産を取得する場合のその金銭を除く。)の受取若しくは支払のあった日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入する(令121の5①)。

 なお上記4のとおり、デリバティブ取引等の決済時の有効性の判定において有効性割合がおおむね100分の80から100分の125までとなっていなかったときは、有効性割合がおおむね100分の80から100分の125までとなっていた直近の有効性判定における利益額又は損失額を繰り延べ、その直近の有効性判定における利益額又は損失額と決済時の有効性判定における利益額又は損失額との差額は、その決済の日の属する事業年度の益金の額又は損金の額に算入するものとされており、この差額があった場合には、上記決済損益額は、この差額に相当する金額を減算し又は加算した金額とする。

7 適格合併等における繰延ヘッジ処理

 適格合併、適格分割又は適格現物出資により被合併法人等が行っていた繰延ヘッジ処理に係るヘッジ対象物及びヘッジ手段であるデリバティブ取引等が移転した場合には、合併法人等においてもその繰延ヘッジ処理を引き継ぐ(法61の6③)。

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