資産の譲渡等の時期は、原則として、おおむね次による。なお、資産の譲渡等の時期について、所得税又は法人税の課税所得金額の計算における総収入金額又は益金の額に算入すべき時期に関し、別に定めがある場合には、それによることができる(基通9-6-2)。
1 棚卸資産の譲渡の時期
棚卸資産の譲渡を行った日は、その引渡しのあった日となる(基通9-1-1)。
棚卸資産の引渡しの日がいつであるかについては、例えば、出荷した日、相手方が検収した日、相手方において使用収益ができることとなった日、検針等により販売数量を確認した日等、その棚卸資産の種類及び性質、その販売に係る契約の内容等に応じてその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、事業者が継続して棚卸資産の譲渡を行ったこととしている日による。この場合において、その棚卸資産が土地又は土地の上に存する権利であり、その引渡しの日がいつであるかが明らかでないときは、次に掲げる日のうちいずれか早い日にその引渡しがあったものとすることができる(基通9-1-2)。
備考
荷送人が運送品の譲渡について為替手形を振出し、その為替手形を金融機関において割引をする際に船荷証券又は複合運送証券を提供する場合のその提供は、資産の譲渡等には該当しないが、荷受人が船荷証券又は複合運送証券を他に譲渡した場合には、その引渡しの日にその船荷証券又は複合運送証券に係る資産の譲渡が行われたことになる(基通9-1-4)。
(委託販売)
なお、棚卸資産の委託販売に係る委託者における資産の譲渡をした日は、その委託品について受託者が譲渡した日となる。ただし、その委託品についての売上計算書が売上げの都度作成されている場合において、事業者が継続してその売上計算書の到着した日を棚卸資産の譲渡をした日としているときは、その日とすることができる(基通9-1-3)。
備考
受託者が週、旬、月を単位として一括して売上計算書を作成しているときは、「売上げの都度作成されている場合」に該当する(基通9-1-3(注))。
2 請負による資産の譲渡等の時期
請負による資産の譲渡等の時期は、原則として、物の引渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日となる(基通9-1-5)。
(建設工事等)
請負契約の内容が建設、造船その他これらに類する工事(以下「建設工事等」という。)を行うことを目的とするものであるときは、その引渡しの日がいつであるかについては、例えば、作業を結了した日、相手方の受入場所へ搬入した日、相手方が検収を完了した日、相手方において使用収益ができることとなった日等、その建設工事等の種類及び性質、契約の内容等に応じてその引渡しの日として合理的であると認められる日のうち、事業者が継続して資産の譲渡等を行ったこととしている日による(基通9-1-6)。
ただし、事業者が請け負った建設工事等(法第17条第1項若しくは第2項(工事の請負に係る資産の譲渡等の時期の特例)の規定の適用を受けるものを除く。)について次に掲げるような事実がある場合には、その建設工事等の全部が完成しないときにおいても、その課税期間において引き渡した建設工事等の量又は完成した部分に対応する工事代金に係る資産の譲渡等の時期は、その引渡し等を行った日となる(基通9-1-8)。
備考
事業者が請け負った建設工事等に係る工事代金につき資材の値上り等に応じて一定の値増金を収入することが契約において定められている場合には、その収入すべき値増金の額はその建設工事等の引渡しの日の属する課税期間の課税標準額に算入するが、相手方との協議によりその収入すべきことが確定する値増金については、その収入すべき金額が確定した日の属する課税期間の課税標準額に算入する(基通9-1-7)。
(据付工事)
事業者が機械設備等の販売(法第17条第1項若しくは第2項(工事の請負に係る資産の譲渡等の時期の特例)の規定の適用を受けるものを除く。)をしたことに伴いその据付工事を行った場合において、その据付工事が相当の規模のものであり、その据付工事に係る対価の額を契約その他に基づいて合理的に区分することができるときは、機械設備等に係る販売代金の額と据付工事に係る対価の額とを区分して、それぞれにつき資産の譲渡等を行ったものとすることができる(基通9-1-9)。
(不動産の仲介あっせん)
土地、建物等の売買、交換又は賃貸借(以下「売買等」という。)の仲介又はあっせんに係る資産の譲渡等の時期は、原則としてその売買等に係る契約の効力が発生した日とする。ただし、事業者が売買又は交換の仲介又はあっせんに係る資産の譲渡等の時期を継続してその契約に係る取引の完了した日(同日前に実際に収受した金額があるときは、その金額を収受した日)としているときは、その日とすることができる(基通9-1-10)。
(技術役務の提供)
設計、作業の指揮監督、技術指導その他の技術に係る役務の提供に係る資産の譲渡等の時期は、原則として、その約した役務の全部の提供を完了した日であるが、その技術に係る役務の提供について次に掲げるような事実がある場合には、その支払を受けるべき報酬の額が確定した日にその確定した金額に係る役務の提供が行われたこととなる。ただし、その支払を受けることが確定した金額のうち役務の全部の提供が完了するまで又は1年を超える相当の期間が経過するまで支払を受けることができないこととされている部分については、その完了する日とその支払を受ける日とのいずれか早い日を資産の譲渡等の時期とすることができる(基通9-1-11)。
備考
技術に係る役務の提供についての契約に関連してその着手費用に充当する目的で相手方から収受する仕度金、着手金等の額は、後日精算して剰余金があれば返還することとなっているものを除き、その収受した日の属する課税期間において行った役務の提供に係るものとすることができる(基通9-1-11(注))。
(運送収入)
運送業における運送収入に係る資産の譲渡等の時期は、原則としてその運送に係る役務の提供を完了した日となる。ただし、事業者が運送契約の種類、性質、内容等に応じ、例えば次に掲げるような方法のうちその運送収入に係る資産の譲渡等の時期として合理的であると認められるものにより継続してその資産の譲渡等を行っているとしている場合には、その日とすることができる(基通9-1-12)。
備考
左に関連して次の取扱いが定められている(基通9-1-12(注))。
3 固定資産の譲渡の時期
固定資産の譲渡の時期は、原則として、その引渡しがあった日となる。ただし、その固定資産が土地、建物その他これらに類する資産である場合において、事業者がその固定資産の譲渡に関する契約の効力発生の日を資産の譲渡の時期としているときは、その日とすることができる(基通9-1-13)。
固定資産の引渡しの日がいつであるかについては、棚卸資産の引渡しの日の例による(基通9-1-13(注))。
備考
農地の譲渡があった場合において、その農地の譲渡に関する契約が農地法上の許可を受けなければその効力を生じないものであるため、事業者がその譲渡の時期をその許可のあった日としているときは、その日とすることができる(基通9-1-14)。
4 工業所有権等の譲渡の時期
工業所有権等の譲渡又は実施権の設定については、その譲渡又は設定に関する契約の効力発生日に行われたものとなる。ただし、その譲渡又は設定に関する契約の効力が登録により生ずることとなっている場合で、事業者がその登録日によっているときは、その日とすることができる(基通9-1-15)。
備考
工業所有権等とは、特許権、実用新案権、意匠権及び商標権、回路配置利用権又は育成者権並びにこれらの権利に係る出願権及び実施権をいう。
(ノウハウの頭金等)
ノウハウの設定契約に際して支払を受ける一時金又は頭金を対価とする資産の譲渡等の時期は、そのノウハウの開示を完了した日となる。ただし、ノウハウの開示が2回以上にわたって分割して行われ、かつ、その一時金又は頭金の支払がほぼこれに見合って分割して行われることとなっている場合には、その開示をした日に資産の譲渡等があったものとなる(基通9-1-16)。
備考
その一時金又は頭金の額がノウハウの開示のために現地に派遣する技術者等の数及び滞在期間の日数等により算定され、かつ、一定の期間ごとにその金額を確定させて支払を受けることとなっている場合には、その支払を受けるべき金額が確定する都度資産の譲渡等が行われたものとなる(基通9-1-16(注1))。
5 有価証券の譲渡の時期
有価証券及び令第9条第1項第2号及び第4号(有価証券に類するものの範囲等)に規定する有価証券に類するもののうち証券又は証書が発行されているものの譲渡の時期は、原則として、その引渡しがあった日となる(基通9-1-17)。ただし、事業者が金融商品取引法第161条の2第1項(信用取引等における金銭の預託)の規定による信用取引又は発行日取引の方法により株式の売付けを行った場合におけるその売付けに係る株式の譲渡の時期は、その売付けに係る取引の決済を行った日となる(基通9-1-18)。
(株券の発行がない株式等の譲渡の時期)
令第9条第1項第1号及び第3号(有価証券に類するものの範囲等)に規定する有価証券に類するものの譲渡の時期は、証券の代用物が発行されている場合はその引渡しがあった日、証券の代用物が発行されていない場合は譲渡の意思表示があった日とする(基通9-1-17の2)。
(登録国債の譲渡の時期)
令第1条第2項第3号(登録国債)に規定する登録国債の譲渡の時期は、名義変更の登録に必要な書類の引渡し等があった日とする(基通9-1-17の3)。
(合名会社の社員の持分等の譲渡の時期)
合名会社、合資会社又は合同会社の社員の持分、協同組合等の組合員又は会員の持分その他これらに類する法人(人格のない社団等、匿名組合及び民法上の組合を含む。)の出資者の持分(証券が発行されていないものに限る。)の譲渡の時期は、譲渡の意思表示があった日とする(基通9-1-17の4)。
6 利子、使用料等を対価とする資産の譲渡等の時期
貸付金、預金、貯金又は有価証券(貸付金等という。)から生ずる利子の額は、その利子の計算期間の経過に応じその課税期間に係る金額がその課税期間の資産の譲渡等の対価の額となる。ただし、主として金融及び保険業を営む事業者以外の事業者は、その有する貸付金等(その事業者が金融及び保険業を兼業する場合には、当該金融及び保険業に係るものを除く。)から生ずる利子で、その支払期日が1年以内の一定の期間ごとに到来するものの額につき、継続してその支払期日の属する課税期間の資産の譲渡等の対価の額とすることができる(基通9-1-19)。
(賃貸料)
資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける使用料等の額(前受けに係る額を除く。)を対価とする資産の譲渡等の時期は、その契約又は慣習によりその支払を受けるべき日となる。ただし、その契約について係争(使用料等の額の増減に関するものを除く。)があるためその支払を受けるべき使用料等の額が確定せず、その課税期間においてその支払を受けていないときは、相手方が供託したかどうかにかかわらず、その係争が解決して当該使用料等の額が確定しその支払を受けることとなる日とすることができる(基通9-1-20)。
備考
使用料等の額の増減に関して係争がある場合には、契約の内容、相手方が供託をした金額等を勘案してその使用料等の額を合理的に見積もる必要がある(基通9-1-20(注))。
(工業所有権等の使用料)
工業所有権等又はノウハウを他の者に使用させたことにより支払を受ける使用料の額を対価とする資産の譲渡等の時期は、その額が確定した日となる。ただし、事業者が継続して契約によりその使用料の額の支払を受けることとなっている日としている場合には、それによることができる(基通9-1-21)。