税務用語辞典


  • 令和3年度 税制改正対応版※令和3年4月1日現在の法令等によっています。

農地等を贈与した場合の贈与税の納税猶予及び免除

この解説は最終更新日から1年以上経過しており、現行法令に準拠していない可能性があります。

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 農業を営む個人が推定相続人の1人の者に農地の全部及び採草放牧地と準農地の3分の2以上を贈与した場合の贈与税については、その期限内申告書に必要書類を添付して申告し、かつ、その申告期限までに担保を提供した場合に限り、その贈与者の死亡の日までその納税の猶予が認められる(措法70の4)。

(注) 相続時精算課税適用者又はその年中の農地等以外の財産の贈与について相続時精算課税選択届出書を提出しようとする者が、特定贈与者又はその年中に相続時精算課税制度の適用を受けようとする贈与をした者からの贈与により取得した財産について納税猶予の適用を受ける場合にはその農地については相続時精算課税制度の適用を受けることはできない(措法70の4③)。

  • (イ) 贈与者の死亡の日前において、次の事実が生じたときは、猶予税額の全部を納付しなければならない。
    • ① 任意譲渡等の合計が贈与農地等の面積の20%超となる場合(措法70の4①一)
       (注) 収用交換等による譲渡又は農用地区域内にある農地の農業経営基盤強化促進法の規定による農地売買等事業若しくは農用地利用集積計画による譲渡等は、20%の判定の対象とならない。
    • ② 贈与農地等に係る農業経営を廃止した場合(措法70の4①二)
    • ③ 贈与者の推定相続人に該当しないこととなった場合(措法70の4①三)
    • ④ 受贈者の任意の取りやめの場合(措法70の4①四)
    • ⑤ 3年ごとの納税猶予継続届出書を提出しなかった場合(措法70の4○30)
    • ⑥ 担保変更命令に応じなかった場合(措法70の4○31)
  • (ロ) 贈与者の死亡の日前において、次の事実が生じたときは、その事実に見合う猶予税額を納付しなければならない(措法70の4④⑤)。
    • ① 贈与農地等の面積の20%以下を任意譲渡等した場合
    • ② 贈与農地等のうち収用等の特定の譲渡等をした場合
    • ③ 申告期限から10年経過日において未開発の準農地があった場合
    • ④ 都市営農農地等について買取りの申出があった場合
    • ⑤ 特例の適用を受けている農地等が都市計画の決定又は変更により特定市街化区域農地等に該当することとなった場合等

 なお、(イ)又は(ロ)により猶予税額を納付する場合には申告期限からの利子税(年3.6%)をあわせて納付しなければならない(措法70の4○35)。

 また、①特定市街化区域農地等及び②一定の遊休農地(農地法第32条の規定による通知に係るものをいう。)は相続税の納税猶予の特例と同様、この特例の適用対象から除かれている(措法70の4①)。特定市街化区域農地等の定義(830頁)参照。

備考

農業を営む個人とは、3年以上引き続いて農業を営んでいた個人で次の場合に該当しない者をいう(措令40の6①③⑤)。

  • ① その贈与の年(以下「対象年」という。)の前年以前において、農地を推定相続人に対し贈与した場合で、その農地について相続時精算課税が適用されているとき
  • ② 相続時精算課税制度の適用により、既にその採草放牧地及び準農地を推定相続人に対し贈与した場合で、その面積が過去からの累積で3分の1以上となるとき
  • ③ 対象年において、その贈与以外の贈与で、農地及び採草放牧地並びに準農地を贈与している場合

担保は納税猶予される本税と納税猶予期間中の利子税との合計額に相当する担保をいう(措通70の4-17)。

推定相続人の1人の者とは、次の①から④のすべての要件を備えている者として農業委員会が証明した個人とする(措令40の6⑥)。

  • ① 受贈時の年齢が18歳以上で、
  • ② 引き続き3年以上農業に従事し、
  • ③ 受贈後農業経営を行うと認められること。
  • ④認定農業者であること。

準農地の意義は相続税の猶予の場合と同じである。

贈与農地等の譲渡代金で、税務署長の承認を受けて1年以内に農地又は採草放牧地を取得し、農業の用に供する場合には、その買換え部分は左の(イ)、(ロ)とも適用されない(措法70の4⑮)。

贈与農地等の譲渡代金に相当する価額の贈与農地等以外の自己所有農地を、税務署長の承認を受けて譲渡した贈与農地等に代わるものとして農業の用に供する場合には、その付替え部分は、左の(イ)、(ロ)とも適用されない(措法70の4⑯)。

「利子税の割合の特例(措法93)」が設けられている(827頁参照)。

受贈農地を使用貸借により経営移譲した場合の特例

 上記の贈与税の納税猶予の特例を受けている受贈者が農業者年金基金法の規定に基づく特例付加年金(廃止された従来の経営移譲年金を含む。)の支給を受けるため、その受贈者の推定相続人の1人に対し特例を受けている農地等の全てについて使用貸借権の設定をしたうえ、年金の給付を受けるための請求をし、かつ、その推定相続人が営むこととなる農業に従事する場合には、その納税猶予は継続される(措法70の4⑥、措令40の6⑯⑰)。

 なお、推定相続人が、使用貸借権の譲渡・農業経営の廃止をした場合には、受贈者がこれをしたものとみなされ、受贈者の推定相続人でなくなった場合には、受贈者が贈与者の推定相続人でなくなったものとみなされる(措法70の4⑦)。

備考

受贈者の推定相続人の要件は、上記の受贈者の要件とほぼ同様である(措令40の6⑮)。

農業経営をしている推定相続人が死亡した場合には、さらに他の推定相続人等に経営移譲するか又はその受贈者が農業経営を開始すれば、その納税猶予は継続される(措令40の6⑱二、三)。

農用地利用集積計画に基づく一定の貸付けを行った場合の特例

 上記の贈与税の納税猶予の特例の適用を受けている農地等を農業経営基盤強化促進法に規定する農用地利用集積計画の定めるところによる賃借権等の設定に基づき貸し付けた場合において、その貸し付けた農地等に代わるものとして農地等を農用地利用集積計画の定めるところによる賃借権等の設定に基づき借り受けており、かつ、その借り受けている農地等の面積のその貸し付けた農地等の面積に対する割合が100分の80以上であることなど一定の要件を満たすときは、その貸し付けた農地等に係る賃借権等の設定はなかったものとみなされる(措法70の4⑧)。

一時的道路用地等の用に供した場合の特例

 上記の贈与税の納税猶予の特例の適用を受けている受贈者が、その特例の適用を受けている農地等の全部又は一部を一時的道路用地等の用に供するために使用貸借による権利、賃借権又は地上権(以下「地上権等」という。)の設定に基づき貸し付けた場合において、その貸付期限の到来後遅滞なく農業の用に供すると認められることにつき納税地の所轄税務署長の承認を受けたときは、当該一時的道路用地等の用に供するための地上権等の設定はなかったものとみなされる(措法70の4⑱)。

 なお、納税猶予の特例の適用を受けている相続人がその相続人の推定相続人に対し、贈与税の納税猶予の特例の対象となる贈与を行った場合にも一時的道路用地等について引き続き贈与税の納税猶予の特例の適用があることとされている(措令40の6○69)。

備考

一時的道路用地等とは、次に掲げる事業のために一時的に使用する道路、水路、鉄道その他の施設の用地で代替性のないものとしてその事業に係る主務大臣が認定した用地をいう(措法70の4⑱)。

  • イ 道路法による道路に関する事業
  • ロ 河川法が適用される河川に関する事業
  • ハ 鉄道事業法による鉄道事業者がその鉄道事業で一般の需要に応ずるものの用に供する施設に関する事業
  • ニ その他これらの事業に準ずる事業として当該事業に係る主務大臣が認定したもの

営農困難時貸付けの特例

 この特例の適用を受けている受贈者が、障害、疾病その他の事由によりその適用を受ける特例農地等について、その受贈者の農業の用に供することが困難な状態となった場合において、その特例農地等について地上権、永小作権、使用貸借による権利又は賃借権の設定に基づき一定の貸付け(以下「営農困難時貸付け」という。)を行ったときは、営農困難時貸付けを行った日から2か月以内に、営農困難時貸付けを行っている旨の届出書を納税地の所轄税務署長に提出したときに限り、納税猶予が継続される(措法70の4○22)。

備考

「農業の用に供することが困難な状態」とは、次の場合をいう(措令40の6○51)。

  • イ 障害等級が1級の精神障害者保健福祉手帳の交付を受けていること
  • ロ 身体上の障害の程度が1級又は2級である身体障害者手帳の交付を受けていること
  • ハ 要介護状態区分が要介護5である要介護認定を受けていること
  • ニ 上記イ~ハのほか、農業に従事させることを不可能にさせる一定の故障を有するに至ったことについて市町村長又は特別区の区長の認定を受けていること

贈与税の納税猶予を適用している場合の特定貸付けの特例

 贈与税の納税猶予の適用を受ける受贈者が、その適用を受ける農地又は採草放牧地の全部又は一部について、次の①又は②に掲げる貸付け(以下「特定貸付け」という。)を行った場合において、特定貸付けを行った日から2か月以内に特定貸付けを行った旨の届出書を納税地の所轄税務署長に提出したときは、その特定貸付けを行った農地又は採草放牧地について、引き続き贈与税の納税猶予を適用することができる(措法70の4の2①)。

  • ① 農地中間管理事業の推進に関する法律第2条第3項に規定する農地中間管理事業(同項第5号に掲げる業務を行う事業を除く。)のために行われる貸付け
  • ② 農業経営基盤強化促進法第20条に規定する農用地利用集積計画の定めるところにより行われる貸付け

農地等の贈与者が死亡した場合の相続税の課税の特例

 上記の贈与税の納税猶予の特例を受けている場合において、農地等の贈与者が死亡したときは、納税猶予に係る贈与税は免除されるとともに、その贈与農地等はその受贈者がその贈与者から相続によって取得したものとされ、その死亡の時の価額で相続税の課税価格に算入して相続税額を計算する(措法70の4○34、70の5①)。

 贈与農地等の譲渡代金で、税務署長の承認を受けてその譲渡があった日以後1年以内に農地又は採草放牧地を取得していた場合又はその譲渡代金に相当する価額の自己所有農地に猶予税額を付け替えた場合には、その買い換えた農地等又はその付け替えた農地等も贈与者から相続により取得したものとみなす(措法70の5②)。

備考

贈与者の死亡に伴い相続により取得したものとみなされる左の贈与農地等に係る相続税について、その受贈者は、相続税の納税猶予を受けることができる(措法70の6①、措令40の7④)。

農地等の受贈者が贈与者より先に死亡した場合の贈与税の免除

 上記の贈与税の納税猶予の特例を受けている場合において、農地等の受贈者が贈与者より先に死亡したときは、その農地等に係る贈与税は、受贈者の死亡時において免除される(措法70の4○34)。

備考

左の場合、農地等の受贈者の死亡により、その農地等について通常の相続が開始し、相続税の課税が生ずることになる。この農地等の相続税についても納税猶予の適用を受けることができる(措法70の6①)。

受贈農地につき収用交換等による譲渡をした場合の利子税の特例

 上記の贈与税の納税猶予の特例を受けている受贈者が受贈農地につき収用交換等による譲渡をしたことにより、その譲渡をした受贈農地に係る納税猶予税額を納付しなければならないこととなった場合には、その納税猶予税額に併せて納付すべきこととされている利子税の額が、2分の1(平成26年4月1日から令和8年3月31日までの間の収用交換等による譲渡をした場合には、零)に軽減される(措法70の8①)。

 なお、この特例の適用を受けようとする受贈者は、納税猶予の期限までに特例の適用を受けたい旨の届出書を提出しなければならない(措法70の8②)。

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