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[全文公開] 国外中古建物の譲渡所得と取得費

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令和2年度税制改正で「国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」が創設された。本特例は,不動産所得の計算上生じる国外中古建物の貸付けによる損失額のうち,耐用年数を簡便法又は一定の書類添付がない見積法で計算した国外中古建物の減価償却費に相当する額が生じなかったものとみなされ,損益通算等できなくなるもの( 措法41の4の3 )。

令和3年分の所得税から適用され,実際の使用可能期間に適合していない耐用年数で高額な減価償却費を計上し,損益通算する節税スキームを封じるねらいだ。

不動産所得の計算で本特例の適用を受けた国外中古建物を売却等すると,譲渡所得の計算で用いる「取得費」の額が通常とは異なってくる。

譲渡所得は,譲渡価額から取得費と譲渡費用を控除して計算し,通常,「取得費」は建物の購入代金から減価償却費の累積額を控除した額となる( 所法38 )。国外中古建物を譲渡した場合は,ここに本特例で不動産所得の計算上生じなかったものとされた額を加えた額となる( 措法41の4の3 ③)。例えば,国外中古建物を1,000万円で購入し,900万円で売却した(譲渡費用なし)場合,償却費の累積額は700万円であったが,本特例の適用により不動産所得で250万円が生じなかったものとされたのであれば,取得費は550(=1,000-700+250)万円となり,譲渡所得は350(=900-550)万円となる。

なお,本特例で対象となる国外中古建物の“貸付け”には,他人に貸すことのほかに,建物上の権利,例えば使用貸借権や借家権などを他人に設定させることなども含まれるとのことだ。