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[全文公開] 押さえておきたい電子帳簿保存法の基礎 第1回 電子帳簿保存法とは?(電帳法の概要と令和5年度改正)

辻・本郷 税理士法人 税理士 猪野 茂


【略歴】
  辻・本郷 税理士法人 特別顧問(税理士・米国公認会計士) 猪野 茂
 2021年7月国税庁を退官(札幌国税局長)し、同年9月より現職。12月~辻・本郷 ITコンサルティング株式会社取締役、2022年4月~亜細亜大学経済学部特任教授(租税法・租税論)。1984年明治大学法学部卒業、1998年Harvard Law School修了(LL.M)
(2023年2月 現在)

1. はじめに

電子帳簿保存法。皆さんも名前だけは聞いたことがあるのでは? 正式名称は「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。長い名前でとっつきにくいですね。世間では「電帳法」の方が通りが良いですから、ここでも、通称の「電帳法」という言葉を使うこととします。

さてこの電帳法、税務や経理の仕事に携わる人たちの中では、それなりに認識されていました。なぜか? 請求書や納品書といった取引関係書類に通常書かれている情報をメールやインターネットなどで電子的にやりとりする「電子取引」。令和3年度税制改正において、これを電子的に保存しなければならなくなったからです。保存義務の対象となる者は、法人税と申告所得税の納税義務者全てだったので、その影響はかなり大きいものがありました。

ただし、令和3年12月に出された、電子取引のデータ保存の義務化に関する2年間の宥恕措置、そして令和4年12月に公表された与党税制調査会「令和5年度税制改正大綱」で示された電帳法の再改正と、相次いで細かな緩和措置が出されています。このため、電子取引のデータ保存義務化についても、事情が若干変わってきています。

また、経理DXやペーパーレスの観点から、紙でやりとりした請求書等をスキャンして電子的に保存しようとお考えの方もおられることと思いますが、こちらも、令和5年度改正によって、グッとやりやすくなっています。

令和5年10月からのインボイス制度開始後には、適格請求書を電子取引としてやりとりする場面も多くなってくるものと思われます。その際には、電帳法の知識も必要不可欠です。

これからの説明では、そういったことにも触れながら、なるべくやさしく、わかりやすく、そして網羅的に電帳法の解説をしていきます 1

1 電帳法5条 では、電子計算機出力マイクロフィルムによる保存についても規定されていますが、最近は一般的ではなくなってきていることから、本稿では説明を省略することとします。

2.そもそも電帳法とは何か?

法人税法や所得税法といった税法では、帳簿書類を整理し、これを一定期間、納税地に保存しなければなりません( 法法126 ①、 法規59 ①一、 所法148 ①、 所規63 ①一等)。ここでいう帳簿とは、全ての取引を借方及び貸方に仕訳する帳簿、すなわち「仕訳帳」、全ての取引を勘定科目の種類別に分類して整理計算する帳簿、すなわち「総勘定元帳」、その他必要な帳簿を指すこととされ( 法規54所規58 )、これを電帳法では「国税関係帳簿」と呼んでいます( 電帳法2 二)。また、ここでいう書類とは、「取引に関して、相手方から受け取った注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し」を指し( 法規59 ①三、 所規63 ①三)、これを電帳法では、「国税関係書類」と呼んでいます( 電帳法2 二)。そして、ここでいう保存とは、書面での保存を指すものとされているのです。電帳法は、こうした国税関係帳簿や国税関係書類について、一定の要件を充たせば電子データでの保存を認める法律なのです。

電帳法が狙うもの。それは、帳簿や取引書類といった税務に係る文書類の作成や保存を電子的に行うことを促進して、企業のバックオフィス業務のデジタル化を促すこと、ひいては企業の生産性向上につなげることだといえます。また、納税者に帳簿書類を適切に保存してもらうことによって、納税者の記帳水準を向上させようという狙いもあります。

3.電子帳簿保存法上の3つのカテゴリー

電帳法の理解の第一歩。それは、電帳法の世界の3つのカテゴリーを知ることです。①自己作成帳簿書類保存制度、②スキャナ保存制度、③電子取引データ保存制度の3つです。この3つのカテゴリーがある、ということを頭に入れておいてくださいね。

具体的には、以下のとおりです。

① 自己作成帳簿書類保存制度( 電帳法4 ①、②)

自己が最初の段階から一貫してシステム等を使用して作成した「国税関係帳簿」や「国税関係書類」をデータとして保存するためのしくみ

② スキャナ保存制度( 電帳法4 ③)

取引先から紙(書面)で受領したり、紙(書面)で作成した「国税関係書類」をスキャナで読み込んでデータとして保存するためのしくみ

③ 電子取引データ保存制度( 電帳法7

「国税関係書類」に通常記載される取引情報をクラウドサービスや電子メールなどでやりとりする電子取引について、その情報をデータとして保存するためのしくみ

全体像を把握するために、次の図でイメージしてみてください。

4.令和5年度税制改正大綱における電帳法の改正事項について

ところで、この電帳法、令和4年12月に公表された与党税制調査会「令和5年度税制改正大綱」で、改正事項がいくつか示されています。細かな改正事項もありますが、ここでは電子取引に関するものとスキャナ保存に関するものの中で、特に重要な2つの点について、触れてみましょう。

そもそも基礎が分からないので、何のことだかわからない方のためには、次回以降でも、該当するテーマにおいて、他の細かな改正事項も含めてわかりやすくふれていきますので、安心してくださいね。

(1) 電子取引のデータ保存要件の緩和:検索機能の確保要件の見直し等

現状、法人税または申告所得税の納税者が電子取引を行った場合、その取引情報のデータは、少なくとも、a)取引年月日その他の日付、b)取引金額、c)取引先を検索の条件として設定することができるように検索機能を確保することが求められています 2 。これを「検索機能の確保要件」といいます。

2 税務職員の質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じることができるようにしている場合に限ります。なお、「売上高が1千万円以下」である事業者は、すべての検索機能の確保の要件が不要となります。令和5年度税制改正においては、この「売上高が1千万円以下」の基準が、「売上高5千万円以下」に引き上げられました。

令和6年1月1日以後に行う電子取引については、税務職員の質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じることができるようにしている等の場合には、電子取引のデータを出力することにより作成した書面を取引年月日等及び取引先ごとに整理して保存しておけば、「検索機能の確保要件」が不要となります。ただし、電子取引のデータ保存のためのその他の要件は、引き続き満たす必要がありますので、ご注意ください。

また、電子取引のデータ保存のためのシステム対応を「相当の理由」により行うことができなかった事業者については、税務職員に対する電子取引データの出力書面の提示・提出及び税務職員のダウンロードの求めに応じることができるようにしておくことにより、電帳法の保存要件を満たさずに、電子取引のデータ保存をすることができることとなりました。

(2) スキャナ保存の要件緩和:相互関連性の確保要件の緩和

現状、紙でやり取りした請求書などの「国税関係書類」 3 をスキャナで読み込んで、データとして保存する場合には、帳簿の記録事項とスキャンしたデータとの間に、相互にその関連性を確認できるようにすることが求められています。これを「相互関連性の確保要件」といい、スキャンしてデータ保存したすべての書類が対象でした。

令和6年1月1日以降に保存が行われるものについては、「相互関連性の確保要件」が求められる書類は、資金や物の移動に直結・連動する、いわゆる「重要書類」に限定されることになりました。

これにより、見積書、注文書や検収書といった、「重要書類」以外の書類(「一般書類」といいます)については、帳簿の記録事項との間での相互関連性を確保することなく、スキャンしてデータ保存ができることになりました。

3 貸借対照表や損益計算書などの決算関係書類は、スキャナ保存の対象から除かれます。

5.まとめ

電帳法は、これまで各税法において紙で保存することとされていた取引に関係する書類や帳簿について、一定の要件を満たせば電子的に保存することを認める法律です。

電帳法には、①自己が一貫してシステムで作成した帳簿や書類を電子保存する「自己作成帳簿書類保存制度」、②紙でやりとりした書類をスキャンして電子保存する「スキャナ保存制度」、③電子的にやりとりした取引データを電子保存する「電子取引データ保存制度」の3つのカテゴリーがあります。

また、令和5年度税制改正により、電帳法の保存要件が緩和されたことにより、一般書類のスキャナ保存については、かなりやりやすくなりました。

他方、電子取引の方は、電子取引データを書面(紙)に出力して取引年月日等及び取引先ごとに整理して保存し、電子取引のデータを税務職員の質問検査権に基づくダウンロードの求めに応じることができるようにしておけば、検索要件を満たさなくても電子取引のデータ保存ができるようになります。

この場合、電子取引のデータ保存のためのシステム対応をできなかったことについて「相当の理由」がない限り、電子取引に関する検索要件以外の要件は満たさなければならず、やはり何らかの対応はしなければならないこととなりますので注意が必要です。