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ようこそ、国税通則法の世界へ ~実務で重要となる通則法・徴収法のポイント~ 第1回 国税通則法の内容や目的等 ~introduction~

 税理士 黒坂 昭一

【略歴】
国税庁徴収部管理課課長補佐、東京国税不服審判所副審判官、税務大学校研究部教授、東京国税局徴収部特別整理部門統括国税徴収官(納税管理官、主任国税訟務官)、東村山税務署長を歴任。現在、税理士。
(2025年1月現在)

税理士をはじめ実務家の皆様におかれましては、日ごろの実務を通じて、大変重要な規定が国税通則法に織り込まれていることを再認識のうえ、これまでなかなかなじみが薄く難解な税法の一つとも言われがちでした国税通則法の世界に入り込んで、より多くの方々に国税通則法という税法を理解していただき、実務にも活用していただく必要があると考えております。

また、実務家の皆様の中で、これから税理士試験の「国税徴収法」を受験しようとする方々におかれましても、国税通則法の多くの規定の習熟が必要となります。

税理士をはじめ実務家の皆様、「ようこそ、国税通則法の世界へ」。実務上押さえておきたい国税通則法・徴収法の要点をこれから一緒に学んでいきましょう。

❖ 実務における国税通則法とは

「国税通則法」というと、普段の実務においてあまり条文を見る機会はありませんが、身近なところではどのような適用・活用が見られますか。

「国税通則法」というと、所得税法、法人税法、相続税法などの実体法と異なり、「通則法」という名称から手続法としてのイメージ、税務関係の内部関係の諸手続を規定しているという印象からか、実務においては一見なかなかなじみがないように思われがちですが、結構、身近の実務においても活用されている税法と言えます。

例えば、①各税目における税額の成立及び申告・賦課による確定手続から、その後の税額の誤りによる修正申告又は更正の請求、更に税務署長等による更正・決定、②税務調査手続に関する事前通知や調査結果報告に関する事項など、調査における適正手続を定め、加算税の賦課決定などの課税に関する手続規定のほか、③納税者の権利救済に関する不服申立制度としての「再調査の請求」及び「審査請求」、④納税の緩和制度としての災害に伴う「期限の延長」及び「納税の猶予」制度、⑤賦課処分の除斥期間、徴収権の消滅時効などの規定があります。

このように国税通則法には、納税義務の成立、確定から消滅に至るまで、実務上の諸手続に関する多くの規定が織り込まれています。

解説

1 国税通則法の規定内容等

国税通則法は、国税について一般法としての基本的な事項及び共通的な事項のほか、特別法としての個別具体的な規定が定められています。

国税通則法で規定している各章の主な内容等は、次のとおりです。

第1章(1条~14条) 通則法の目的、納付義務の承継、連帯納付義務、期間の計算、書類の送達及び収受に関する規定 租税法の総則
第2章(15条~33条) 納税義務の成立及び確定の時期、確定方式の規定 租税法の共通的手続
第3章(34条~45条) 納税義務の確定した国税の納付及び徴収の手続に関する規定
第4章(46条~55条) 納税の猶予及び担保に関する規定
第5章(56条~59条) 納めすぎた国税の還付及び還付加算金に関する規定
第6章(60条~69条) 本税に附帯して課される延滞税、利子税及び各種加算税に関する規定 租税法共通の附帯税制度
第7章(70条~74条) 更正、決定、徴収、還付などの期間制限に関する規定 期間制限
第7章の2(74条の2~74条の13の4) 質問検査権、税務調査手続に関する規定 税務調査手続等
第7章の3(74条の14) 行政手続法との関係(処分の理由附記等)を規定 行政手続法との関係
第8章(75条~116条) 不服審査及び訴訟に関する規定 不服審査及び訴訟
第9章(117条~125条) 納税管理人、端数処理、納税証明等に関する規定 雑則
第10章(126条~130条) 罰則に関する規定 罰則
第11章(131条~160条) 犯則事件の調査及び処分に関する規定 犯則事件

このように国税通則法には、各種の税務諸手続をはじめ、納税緩和制度から権利救済制度まで、実務に直結する重要な規定が多くあります。その対象も極めて広範囲にわたっています。

2 国税通則法の適用・活用

ここで、国税通則法が適用・活用されている規定の一例を見ていきましょう。

(1)相続開始に伴う「納付義務の承継」

超高齢化に伴う諸問題を抱える現在の相続に関して、平成26年度の税制改正により相続税における課税最低限度額の見直しにより、相続税の課税割合は増え、多くの人が相続と向き合うこととなり、「争族」という言葉も生まれてきているようです。この相続において、例えば被相続人が滞納している場合、その滞納税額は相続人に承継されることになり、「納付義務の承継」( 通法5 等)が適用されることになります。

(2)低金利化を踏まえた延滞税

市中金利の実勢を踏まえ、利子税等の負担を軽減する観点等から、 国税通則法第60条 の延滞税について原則年利14.6%が、租税特別措置法( 措法93 等)により令和7年中は年8.7%となり、従来の延滞税等は大幅に軽減され、日銀が発表する平均貸付割合に連動したものになっています。

(3)災害に伴う猶予制度の活用等

災害の多い我が国においては、これら災害等に対し、災害発生に伴う申告、納付等の期限に関し「期限の延長」( 通法11 )、納税に関するものとして「納税の猶予」( 通法46 )の制度を設けています。また、「新型コロナウイルス感染症等」に伴う納税に関し、納税の猶予制度( 通法46 )の特例的な措置の活用がなされました。

 上記のような国税通則法の適用・活用については、次回以降の解説で詳述します。

❖ 国税通則法の趣旨・目的

各税法の規定には、各税法の趣旨、目的がありますが、国税通則法はどのような経緯で制定され、その趣旨、目的にはどのようなものがありますか。

国税通則法は、昭和37年に制定され、同年4月1日から施行されました。この国税通則法の目的として、 同法第1条 に掲げているように、税法の体系的な条文構成の整備、その明確化を図り、もって、税務行政の公正な運営を図り、国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資することを、その目的としています。

解説

1 国税通則法の制定経緯とは

国税通則法は、昭和37年法律66号をもって制定され、同年4月1日から施行されました。

昭和34年5月、「国税及び地方税を通じ、わが国の社会経済事情に即応して税制を体系的に改善整備するための方策」について諮問を受けた税制調査会が、昭和36年7月に行った「国税通則法の制定に関する答申」に基づいたものです(志場喜徳郎『国税通則法精解』(大蔵財務協会、2022)1頁)。

2 国税通則法の目的

国税通則法第1条 ((目的))では、「この法律は、国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定め、税法の体系的な構成を整備し、かつ、国税に関する法律関係を明確にするとともに、税務行政の公正な運営を図り、もつて国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資することを目的とする。」としています。

同法1条 では、次の3つの目的を掲げています。

(1)税法の体系的な構成を整備

税法は、納税者の理解が容易に得られるようにすべきであり、各税法の手続に関する共通的な事項は統一的に規定し、税法全体の構成を体系的に整えています。

(2)国税に関する法律関係を明確化

納税者の納税義務に関する法律関係は、納税者の利害に直接影響することから、納税義務はいつ成立し、いかなる行為によって具体的に確定するか、課税と徴収はいつまでの間にできるかなどの、極めて重要な基本事項を明らかにしています。

(3)税務行政の公正な運営と納税環境の適正円滑化

上記(1)、(2)に掲げた目的と関連し、税務行政の公正な運営を図るための改善合理化と、これらを通じて最終的に納税環境の適正円滑化を図ることを目的としています。

❖ 国税通則法制定後の改正とは

税務調査手続に関しては、国税通則法の改正により諸手続に関する規定が織り込まれ、我々実務家にも、税務調査手続の内容等について定着した感がありますが、国税通則法制定後、どのような改正等がなされていますか。

国税通則法は、各税の基本法としての性格から、税制改正の機会が少ない法規でしたが、近年、経済・社会の情勢の変化に相応して多くの改正がなされてきています。

解説

所得税法、法人税法、消費税法及び相続税法などの課税実体法においては、経済・社会の情勢の変化に相応して多くの税制改正がなされます。一方、各税共通の手続法として創設された国税通則法においては、従来改正は少ないように見られますが、近年、国税通則法においても、その目標とするところの税務行政の公正な運営と納税環境の適正円滑化の達成等のため、これまで多くの改正がなされております。

その改正の一例を見てみると、平成23年12月には、税務調査手続の整備・明確化として、①税務職員の質問検査権の整備( 通法74の274の6 等)、②税務調査において提出された物件の留置き手続の明確化( 通法74の7 )、③税務調査の事前通知の明確化( 通法74の9 等)及び④税務調査の終了の際の手続の明確化( 通法74の11 )がなされ、このほか同月の改正では、処分の理由附記の実施( 通法74の11 )、更正の請求期間等の延長等( 通法23 等)、税務手続に関して大変重要な改正、整備がなされました。

平成26年度には、行政不服審査法の改正に伴い、国税通則法に定める不服申立制度において、税務署長に対する「再調査の請求」及び国税不服審判所に対する「審査請求」との選択などの申請手続から、その審理手続においてより公正性を高める制度を取り入れるなど、納税者の権利救済制度としては、大変重要な改正がなされました。

平成29年度には、これまで国税犯則取締法に規定されていた国税犯則調査手続等を国税通則法第11章に規定を編入し、調査手続等を整備しております。

更に、時代が令和を迎え、新型コロナウイルス感染症等の影響に伴う特例猶予措置にみられるように、これまでにない要因に伴う諸変化に伴う納税環境の整備、納税者の権利救済等の観点から改正がなされ、税務行政にも多大な影響がなされました。

最近においても、連結納税制度、国外財産調書制度及び財産債務調書制度及び電子帳簿保存制度に関連し、国税通則法の改正がなされています。

このように我々の社会・経済の諸情勢の変化に伴い、今後も多くの国税通則法の改正がなされることが想定されるため、これからも注視していく必要があります。