新会計監査12ヶ月 「会計士山中剛の明日」(その24)本当の外部の第三者

  

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登場人物
<クレデンス監査法人>
山中 剛(やまなか・たけし):パートナー
<毎経新聞社>
塚原裕貴(つかはら・ひろたか):経済部記者

異動は突然に?

3月下旬,4月の年度初めを前にお客様では人の異動が多くなる。来る人,去る人。20年以上繰り返されても,毎年何かを考える。「大人になる」には「鈍感力」を高める必要があると思うが,それは単に感覚を鈍くさせるのではなく,感じたものを受け止め,受け容れ,しまっておくことができるようになる,ということだと勝手に思っている。

監査法人の人事異動は多くが7月だろう。3月決算のお客様を多く抱え,有価証券報告書が提出されるのが6月末,監査法人はそれまでは社内の動揺は起こさない。その点は徹底されているようだ。

「山中さん,昼ご飯どうですか?」

塚原さんからの電話は久しぶりだった。昨年秋にW社のインサイダー取引に関する記者会見以来だと思う。今度はなんだろう。

「ご無沙汰してます。」

塚原さんはいつも変わらない。書かれるものも毅然としているが,仕事の仕方もそう。

「うちのインサイダー会見以来ですか?」

「ええ,あっという間です。山中さん,あんまり時間ないでしょうから,いきなり本題で申し訳ありません。今日は私への餞別代りにざっくばらんに語っていただけませんか?」

え?餞別?何をおっしゃってるのか?

「餞別って,お辞めになるんですか?」

「4月で経済部から政治部に移ることになりました。もともと採用から5年前まではずっとそっちでしたので,戻るってことですが。」

そうだったのか。自分は仕事で付き合う人の現在の職制や肩書,立場は正確に知りたいと思うが,過去の経歴などをほとんど聞かない。知った方が良いのだろうが,話したくないことを聞くのは,仕事の本題だけにしておきたいと思って個人的なことはあまり聞かない。

「そうだったんですか。知らなかった。」

「え?どっちが。異動ですか?」

「いや,政治部。なんかもっとガードを固めて話してれば良かったのかな,とか。」

「大丈夫ですよ。経済部で扱う内容で人は死にませんから。そういう点では楽ですね...。」

やっぱり聞かなくて良かったみたいだ。

「すみません,私のことはさておき,今日伺いたいのは『監査ってなんですか?』っていう質問です。」

「どういう意味ですか?塚原さんだって相当深くご存じだし,僕より話ができる経験や知識を持った人ご存知ですよね。」

「まあ,そういう人にもい...