書評 越智信仁著 「持続可能性とイノベーションの統合報告~非財務情報開示のダイナミクスと信頼性」

あらた監査法人顧問,ジャパン・ビジネス・アシュアランスグループ顧問  安井 肇

( 39頁)

本書は,タイトルにある通り,持続可能性に象徴される社会価値と,イノベーションに象徴される投資価値,の2つの調和点として統合報告を捉え,これまでの非財務情報開示の歴史的経緯等を踏まえつつ,統合報告への信頼性付与というホットな課題に対する方法論の提示を試みる意欲的な好書である。

すなわち,筆者は,地球温暖化問題等への対応等企業活動の社会的価値に関し,開示による規律付け(ソフト・ロー)が直接的規制(ハードロー)を補完・代替するとし,自律的市民やNPO等の役割に着目する。他方,リーマンショック後の短期主義是正への動きの中,企業の投資価値においても市場の規律付け機能が重要だとする。そのうえで,これら2つの価値に関わる企業活動を簡潔に表現する統合報告書の信頼性確保の見地から監査・保証の問題に言及する。

こうした大きな問題意識に基づき,本書は第Ⅰ部(社会価値的側面からの統合ダイナミクス),第Ⅱ部(投資価値的側面からの統合ダイナミクス),第Ⅲ部(統合報告書の信頼性と監査・保証業務等)から構成されている。

すなわち,第Ⅰ部では,「CSR情報開示規範の役割とコーポレートガバナンス」,「CSR規範形成過程における...