役員の報酬・賞与・慰労金の基本と実務Q&A<189> 経営能力の不足による取締役の解任

 弁護士 小林 公明

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Q

新規事業を担当させるために他から獲得した者を取締役としたが,期待したほどの能力はなく実績が上がらないので解任したところ,当該取締役より残存任期期間中の報酬相当額の損害賠償請求を受けたが,会社は支払う必要があるか。

1 結論

経営能力の不足は取締役解任の正当な理由に当たり,会社はその請求に応じる必要はないが,留意事項がある。

2 解任の自由

会社は,株主総会の普通決議(累積投票により選任された取締役及び監査等委員である取締役の解任の場合は特別決議,309Ⅱ⑦)により,任期(監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社を除く非公開会社においては定款により最長10年まで伸長可,332Ⅱ)中,いつでも取締役を解任することができる(339Ⅰ)。

この解任には理由を要しない。

もっとも,正当な理由がある場合を除き,解任された取締役は,会社に対し解任によって生じた損害の賠償を請求することができる(339Ⅱ)。

「その損害の範囲は,取締役を解任されなければ残存任期期間中と任期満了時に得べかりし利益(所得)の喪失」(大阪高判昭56.1.30判時1013号121頁)とされており,質問にある残任期間中の取締役報酬はこ...