役員の報酬・賞与・慰労金の基本と実務Q&A<192> 退任者の内規に基づく会社及び代表取締役に対する請求

 弁護士 小林 公明

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退任取締役が,慰労金内規に基づいて,会社に対し慰労金支給又はその支給に関する株主総会決議を請求したので,会社は当該内規に則った慰労金支給議案を株主総会に提出しない旨を取締役会で決議したところ,その退任者は当該決議の無効を主張し,かつ代表取締役に対し任務懈怠に基づく損害賠償を請求してきたが,どうしたらよいか。

1 結論

会社は,退任者が当該内規に基づき請求する慰労金支給又はその支給に関する株主総会決議をする必要はなく,代表取締役も,会社と退任者との間に慰労金支給の特約のない限り,損害賠償請求に応じる必要はない。

2 慰労金請求権の発生要件

(1)判例は,退任者に対する慰労金につき,「その在職中における職務執行の対価として支給されるものである限り,商法280条(旧商279条1項, 会社387 Ⅰに対応‐筆者注),同269条( 会社361 に対応‐筆者注)にいう報酬に含まれる」(最判昭39.12.11判時401号61頁。以下同旨最判昭44.10.28判時577号92頁,最判昭48.11.26判時722号94頁)と解している。

会社法下の学説も同様に解している(会社法コンメンタール8巻170頁[田中亘],江...