ハーフタイム 米国企業の役員報酬はなぜ高いのか

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米国のマーケティング学者,P・コトラ―は日本経済新聞の「私の履歴書」(2013年)で米国の法外な高額役員報酬と,その結果としての米国企業の競争力低下について,次のように嘆いていた。「米国企業のCEOが受け取る巨額報酬のニュースを聞くたびに怒りがこみ上げてくる。それほどの報酬に値する人間がいるのだろうか。彼らの貪欲さはどこから来るのだろうか。米国企業が経営幹部の高コスト化によって日韓中企業の競争で不利になっている。富の偏重は結果として,中産階級の購買力を低下させ,雇用も減り,国民の怒りとなる。」

米国企業で起こる現象はやがて日本企業にも伝染する傾向がある。昨年の大企業の社長平均報酬は6,600万円だったが,ソフトバンクの孫社長によってスカウトされた副社長は日本企業の取締役報酬としては過去最高の約80億円だった。

そこで,米国企業の役員が平然と目もくらむような高額報酬を受け取るようになった背景や事情は何なのか,ここでは社会政治思潮に焦点を当てて手短に考えてみたい。

第1に挙げるべきは"行き過ぎた個人主義"であろう。M・ウェーバーが近代資本主義の精神と呼んだ現世的職業倫理は,手段であったはずの「富...