M&A物語 第3回 ターゲットとの接触

~ Basic Level ~

有限責任 あずさ監査法人 企業成長支援本部 パートナー 栗栖孝彰
有限責任 あずさ監査法人 企業成長支援本部 マネジャー 小林秀典

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この物語は,企業の成長戦略としてM&Aを実行するにあたって必要となる知識や会計処理,実務上の対応等について,とある会社員(野口直大朗)の経験ストーリーを通じて解説するものである。なお,文中の意見に関する部分は筆者の私見である。

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「アポはどうなっとるんだ!」一心常務の怒声が会議室に響き渡った。今回の買収ターゲットである「ミワ機械」の社長と当社(ミノリ精機)の社長とのトップ面談の日程がなかなか決まらないためだ。M&A仲介会社によると,ミワ機械の社長がここにきてM&Aに躊躇しているらしい。野口が「M&Aは結婚のようなものですからマリッジブルーですかね」などと茶化しながら説明したものだから,常務からカミナリが落ちたのだ。ミワ機械との本格的なコンタクトはトップ面談から,と決めたもののスタートが切れずに困ってしまった。

「野口君,元気出して!」経理部から今回のM&Aプロジェクトに参加している同期の天音悠里子が会議室を出てから声を掛けてくれた。

野口 「ありがとう。でも,ここにきての迷いは勘弁して欲しいよね」

天音「そうね。でも相手の社長にとっても大変な決断なのだし,仕方がないわよ。それより...