役員の報酬・賞与・慰労金の基本と実務Q&A<198> 取締役解任の正当な理由(3)

 弁護士 小林 公明

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6 各判例とその分析(3)

前回( 本誌No.3293参照 )に続き,質問に対する回答として,正当理由の存否に関する最近の判例を概観し,それぞれ関係する事項を述べる。

各番号の○×は,正当理由の存(○)否(×)を意味し,その存在を認めた判例の各類型の番号とその内容のキーワードは,それぞれ①法令定款違反,②心身の故障,③職務不適任や能力欠如,④経営判断の失敗,⑤業務執行の障害である。

〔8〕○ 東京地判平成8年8月1日商事1435号37頁(①類型)(1)判示「第三 当裁判所の判断二 本件解任の正当事由の有無1 取締役は,その理由の如何を問わず,株主総会の特別決議によって何時でも解任され得る一方で,任期の定めがある場合に正当な事由がなく任期満了前に解任された取締役は,会社に対し損害賠償請求をすることができることとされている(商法257条1項)。この規定の趣旨は,客観的・合理的な理由を欠く解任については,一定の限度で取締役の地位・利益を保護しようとしたものであるから,会社の取締役に対する単なる主観的な信頼関係が失われただけでは『正当な事由』があるとはいえない。解任につき『正当な事由』があるというために...