<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第9回 のれん(その2)

解説

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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ラスボス

ラスボスという言葉があるそうだ。ビデオゲームなどで最後に登場する一番強い敵という意味らしいが,それが転じて,簡単には解決できない最後の難題のことを意味する為にも用いられることがある。のれんはまさにラスボスである。

企業グループを最初から一つの会社であったかのようにみなして会計処理をすれば,企業買収は単に会社という一つの箱を買った訳ではなく,その箱の中にある個々の中身を直接買ったとみなさなければならない。たとえば,工場などの生産設備や,特許などの無形資産,そして金融資産などである。実際には個別の資産を買ったわけではなく,会社全体に値段をつけて買ったのだが,会計基準がそうしろというので,買収した側の企業は仕方なく,被買収企業の中身を識別可能な資産と負債に分解して,それぞれに値段をつける。たとえば,工場を直接買ったとしたらいくらで買えたであろうという値段をつける。このように,識別可能な資産と負債それぞれにひとつひとつ丁寧に値段をつける。とはいえ,実際に個別の資産を直接買ったわけではないので,それぞれの値段はあくまで評価額で...