<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第11回 のれん(その4)

解説

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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絵に描いた餅

当たり前のことだが,お金をドブに捨てようと思って企業買収をする経営者はいない。企業買収に当たって経営者は,十分な戦略を練り,買収によって得られる事業領域や技術や特許や新たな顧客層などによるマーケットの拡大,あるいは統合により実現するであろうシナジーやオペレーションの効率化など全てを勘案し,さまざまなリスクシナリオも織り込んだ上で買収後の将来キャッシュフローを予測する。そしてその将来キャッシュフローの増加額の現在価値が買収金額よりも上回っていると判断される場合に限り,企業買収に動き出す。したがって,理論的には全ての買収は買収時点では成功である。買収時点から失敗という買収はありえない。なぜなら,失敗と分かっているならば買収をやめればいいからだ。なので,買収が出来たという事は,買収は必ず成功なのである。

しかし,ほんの数年経ってみてから,あの買収は失敗だったと言われることがある。全ての買収は成功だったはずなのに,後から振り返って失敗だったと言われても困る。ただ実際には,予測していたキャッシュフローと現実のキャッシュフロ...