時事談論 vol85「会計監査の価値はKAMなのか?」

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●KAMは価値ある情報か?

本稿を書いている段階で,日本の上場会社46社の監査報告書にKey Audit Matter(KAM)の記載があった,とされている。東京証券取引所で約3,700社,その他の市場を合わせて約3,800社のうちの46社だから1.2%程度,ごくわずかだ。それでも新たな制度に積極的に取り組んだ会計監査人と被監査会社の協力には敬意を表したい。

2017年に展開された大手電機メーカーの監査報告書の記載が不十分という指摘には安易に同意できないが,その後の検討の結果,国際基準と同様の記載が日本でも義務付けられることは悪くない。

46社の記述は「ないよりはマシかも」というものから「へー」というものまで様々で,それに対する評価も立場によって良い悪いも色々だ。とはいえ,会計監査人の出す監査報告書に絶対数は少なくとも,これだけ注目が集まったのはこの四半世紀で初めてのことだ。これを生業としている人にとっては,いつもの黒子から少しだけ光が当たる立場になったのかもしれない。

しかし,実際に監査をしている会計士と話すと「それほど騒ぐことなのか?」という反応が少なくない。現代の会計基準を知っていれば,...