書評 中野 貴之編著『IFRS適用の知見-主要諸国と日本における強制適用・任意適用の分析-』

(同文舘出版刊/本体4,300円+税)

関西学院大学大学院 教授 杉本 徳栄

( 40頁)

■ストーリー性のある良書

IFRSが日本の会計制度に組み込まれて,早いもので,結婚式の年数でいえば「鋼のように強い愛で結ばれる」鋼鉄婚式の年(11年目)になる。とくに2014年以降,政府の成長戦略と金融庁の行政方針により,IFRS任意適用企業の拡大促進が進む。そのなかにあって,任意適用が制度化されて10年を経過した節目の年に,IFRSの制度設計とその適用実態について体系的に検討した優れた著書が出版された。

本書の目的は,IFRSの適用をめぐる制度設計に資する証拠(エビデンス)を提供することにある。そのために,第1部 IFRSの適用に関する学術研究のサーベイ,第2部 主要諸国におけるIFRSの強制適用への制度対応,第3部 日本におけるIFRSの任意適用に関する証拠,の3部構成を取る。

映画,ドラマや小説などに限らず,著書や論文もストーリー性を持たせ,視聴者や読者をいかに惹きつけるかは重要な要素である。単著であればフィールドを設定しやすいが,書き手が複数名からなる編著書となると,かなり大変である。本書はその心配をも払拭している。

本書のストーリーは,海外でのIFRS強制適用からの知見を抽出し,その...