不正事例に学ぶ子会社のリスク管理のポイント 第12回 コロナ禍における不正リスク

KPMG FAS ディレクター 佐野 智康

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1.はじめに

新型コロナウイルス感染症は,企業活動に甚大な影響を与えています。例えば,世界経済の深刻なマイナス成長による企業損益への影響,社会ニーズの変化に伴う事業の損益構造への影響,リモートワークの普及による内部統制への影響,海外渡航制限に伴う駐在員派遣およびグループ内部監査への影響などが挙げられます。これらの影響は,企業の不正リスクを高める方向に作用すると考えられます。不正による損失を防止するためには,コロナ禍にも通用する不正リスク対策を講じていく必要があります。そこで今回は,コロナ禍がもたらす不正リスク,具体的な不正事例のケーススタディ,不正リスク対策について説明します。

2.コロナ禍で注意すべき不正リスク

コロナ禍においてなぜ不正リスクに注意すべきなのでしょうか。第1に,経済不況により不正の動機・プレッシャーが高まることが挙げられます。筆者が所属する㈱KPMG FAS フォレンジック部門は,企業の不正予防・調査に日々従事していますが,リーマンショックの発生後に経済悪化が原因とされる不正事案を多数把握しております。第2に,リモートワークや海外渡航制限に伴い,不正発見の機会が減少している...