<IFRS COLUMN>暖簾に腕押し 第38回 基本財務諸表(その2)

 国際会計基準審議会(IASB)前理事 鶯地 隆継

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ある決算発表での出来事

遠い昔のことである。決算発表は会社の重役が経理部の書いた発表文を読み上げるだけで,質問にはすべて経理部のスタッフが対応していた。ある年,発表文の中で「経常利益は増益となりましたが,特別損失により当期利益は減益となりました。」というくだりがあった。発表文の修正作業を繰り返しているうちに,1ページ目の最後の行が入りきらず,「経常利益は増益となりました」というところで改ページとなり,次のページで「が,特別損失により当期利益は減益となりました。」という原稿になった。これを記者発表で読み上げた重役は,得意げに「増益となりました。」と読み上げてから,ゆっくりと間をおいてページをめくり,しまったと思ったのか,小さく「あっ」と叫んでから,さっきまでの威勢のよかった声も急に小さくなって,「が,特別損失により当期利益は減益となりました。」と続けた。

この重役が,当期利益が減益となっていることを知らなかった訳はない。しかし,発表文の1ページ目の最後の1行が,まさか句読点のないところで改ページされているとは知らなかったようだ。1ページ目の最後の1行の文章が伝えたいメッセージは減益であって,...