役員の報酬・賞与・慰労金の基本と実務Q&A<205> 報酬規制に対する取締役の救済策(1)

 弁護士 小林 公明

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取締役は,定款の定め又は株主総会決議を経ることなく,会社に対し,報酬や慰労金の支払いを請求できるか。

1 結論

原則として支払いを請求できないが,会社による支払いの拒絶が信義則上許されないとされる場合がある。

2 報酬(慰労金)請求権の成立要件

会社法361条 の取締役の報酬規制と慰労金の関係については,「退任した取締役に対する退職慰労金は、商法二六九条の報酬(会社361の「報酬等」に対応‐筆者注)とみるべきであり、定款に定めのない以上、株主総会の決議をもって当該取締役に対する支給額を決定して(少なくとも、一定の金額算定基準の存在を前提として、退職慰労金を支給する旨を決定して)、初めて支給が可能となるものであり、右決議は退職慰労金請求権発生の要件となる」と解するのが一貫した判例である(東京地判平2.4.20判例秘書L04530124,この判決は控訴審東京高判平3.7.17資商102号149頁及び上告審最判平4.9.10資商102号143頁により是認された。なお,以下で読点の記号の混在は,引用文献の表記を尊重した結果である)。

すなわち,株主総会決議(定款による例はまれであるので以下略)によらな...