[全文公開] わたしの働き方Vol.18 ~独立公認会計士インタビュー~

株式会社Funda 代表取締役 福代 和也

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【編集部より】 今回話を聞いたのは,会計教育コンテンツの配信や企業研修を手掛ける福代和也氏。「大手町のランダムウォーカー」の運営者の1人として,SNSで発信する会計クイズにはファンも多い。無職から会計士試験合格を果たした異色のキャリアを持つ福代氏に,仕事への思いを聞いた。

――現在のお仕事について教えてください。

私たちの会社は,数字を使って物事を考えられる人材を増やすことをミッションに掲げています。ビジネスの現場では,感覚ではなく数字を用いて具体的に説明するスキルが必要だと考えており,Webアプリや研修を通して情報を提供しています。私自身も「日本人全員が決算書を読める世界を創る」を合言葉に,Twitterで「会計クイズ」を発信しています。

――なぜ公認会計士を目指したのですか。

高校卒業後は無職でした。大学にも行かずフラフラしていましたが,20歳を過ぎた頃,「レールを外れた人生をどのように取り戻すか」と思い,手に職を付けるためにも思い切って難しい資格に挑戦しようと決めました。そこで出合ったのが受験資格のない公認会計士試験でした。当然周りからは無理だと言われました。でも,やろうと思えば何でもできるんじゃないかと,世間を知らないからこそ挑戦できたと思います。勉強は本当に大変でした。これまで勉強もロクにしてこなかったので,九九や方程式からやり直しました。

――監査法人入所後はどのようなキャリアを歩みましたか。

25歳の時に合格・入所し,監査ではなくコンサルティングの部門からスタートしました。僕は周りより3年遅れで社会に出ており,これからは1年も無駄にできないと思い,事前に自分がやりたいことを明確にしておきました。2年ほど経験を積んでから起業しました。

通常,会計士試験に合格したら修了考査後に独立・転職する人が多いと思いますが,僕は修了考査1年前に監査法人を辞めました。このまま法人に残って経験を積むか,外に出て新たな経験を積むかを比較し,外に出て新たな経験を積む方が今後のリターンが大きくなると考えたからです。監査の仕事ではなく,自分が何をしている時が一番楽しいか,それに合わせて勉強や仕事で得たことをどのように活かしていくかが大事でした。その意味で,自分の手札の1つに「会計士試験合格」があったことは,キャリアを考える上で役立ちましたね。

――試験勉強は今でも活きていますか。

コンサル業務では,数字を使って顧客の現状を把握し,あるべき数字を提案してそれを目指していくのですが,こういった課題解決のアプローチが活かせています。また,会計士試験では,会社法,経営学,管理会計などを勉強したので,起業の時にその知識が役に立ちました。

いま会計系のコンテンツを発信しているのも,深く会計の勉強をしてきたからこそです。「会計クイズ」も財務三表が読めないと作れません。加えて自分が経営者として業績指標を設定しているので,そういった経験も含めて全てが役に立っているなと感じます。

――福代さんがTwitterで配信する会計クイズが話題になっていますが,なぜ始めようと思ったのでしょうか。

きっかけは,決算書を読んで企業のビジネスの仕組みやお金の稼ぎ方を知る面白さを伝えたいと思ったからです。ただ,決算書を読むには会計の知識が必要です。どうすれば会計を知らない人に決算書の面白さを伝えられるか考えて作ったのが,会計を知らない人でも参加できる「会計クイズ」だったんです。知識は後からついてくるので,まずは面白さを伝える。これは企業研修でも大切にしているポイントです。

――大切にしているモットーはありますか。

「ユーザーファースト」です。どれだけ自分たちがいいシステムやアプリを作っても,ユーザーが満足しなければ意味がありません。これは監査法人のコンサル時代に先輩から叩き込まれたことです。お客さんが満足しないことをしても結局自己満足でしかない,お客さんが喜ぶかどうかを考えろ,と。だからお客さんの声を聞いて,いいサービスを提供できたら再現性を上げられるか,会社の自分以外のスタッフも同じパフォーマンスを出せるか,無限に考えています。「会計クイズ」でも,アカウントをフォローしてくれている人が何を求め,何を期待しているのか,毎日考えていますね。

――若手の会計士にはどのようなことを伝えたいですか。

数字を読む楽しさを忘れず,仕事を進めていくことが有意義だということです。

対価としてお金をもらっている以上,基本的に仕事は辛いものです。だけど,面白くすることはできると思うんです。 専門家の方なら自分の知識が増えれば増えるほどパフォーマンスが上がります。つまらない仕事の中でも知識欲求を刺激して,楽しい部分,面白い部分を一つずつ増やしていくことが健全だと思います。

――今後の目標を教えてください。

やっぱり数字を使って考えられる人を一人でも多く増やせば,より多くの人が幸せになれると心から思っているので,僕たちのアプリを使ってもらう人の輪を広げていきたいです。

僕自身,レールから一度外れた人間です。それでも曲がりなりに戻ってくることができたのは僕一人の力ではなく,色々な人に支えてもらえたからです。だから,戻った者の使命として,自分がしてもらったことは下の世代に返さなければいけない。そんな思いから「会計クイズ」を発信しています。その結果,「決算書を読むのが面白くなった」「簿記の資格を目指したい」と思ってくれる人が増えたら嬉しいですし,何かを変えられるきっかけのようなものを作っていきたいです。

ふくかず
株式会社Funda 代表取締役
公認会計士試験合格後,PwCあらた有限責任監査法人で財務アドバイザリー業務に従事。独立後,会計及びマーケティングに関するコンサルティング業務をメインに行うと同時に,学習アプリ「Funda」を運営。
SNSアカウント「大手町のランダムウォーカー」にて会計やビジネスに関する情報を発信中。
著書『世界一楽しい決算書の読み方』(KADOKAWA)は発売開始1年で20万部突破。