役員の報酬・賞与・慰労金の基本と実務Q&A<212> ある取締役と経営陣、大株主又は従業員等との確執と当該取締役解任の正当理由(1)

 弁護士 小林公明

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ある取締役と経営陣、大株主又は従業員等との確執は、当該取締役を解任する正当理由となるか。

1 結論

単なる確執だけでは解任の正当理由とはならない。

2 正当理由の5類型

(1)5類型

株主総会の決議による取締役の解任(339Ⅰ)には、正当理由の存在を要しない。

そればかりか、そもそも当該取締役に対する解任理由の告知(ただし、株主総会参考書類には解任理由の記載を要する、会社則78・78の2)や弁明の機会の付与も要しない(大山俊彦「商法二五七条一項但書にいう「正当ノ事由」がないとはいえないとされた事例」金判655号49頁、「告知」不要につき東京地判平30.3.29判例秘書L07330409)。

ただし,当該取締役は,その解任について正当な理由がある場合を除き,会社に対し解任によって生じた損害の賠償を請求することができる(339Ⅱ)。そこで,問題は,その「正当な理由」とは何かである(同条項に対応する平成17年改正前商法257条1項ただし書は「正当ノ事由」と規定していた。以下判決及び文献の引用を除き,本文では「正当理由」で統一する)。これまでの判例でその正当理由が認定された事案は,以下の5類型に場合分け...