役員の報酬・賞与・慰労金の基本と実務Q&A<230> 代表取締役による自らの個別報酬額増額(2)

 弁護士 小林公明

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前回( 本誌3718号 参照)に続き、質問に対する回答として、取締役による自らの個別額決定に関する善管注意義務違反の有無についての最近の裁判例を概観し、併せて実務上の参考事項を述べる。

4 裁判例

次の表はその裁判例の一覧である。

各番号の肯定否定欄は、当該事案における取締役の善管注意義務違反に関する各判決の責任肯定と否定を意味する。

裁判例表
番号 肯定否定 裁判例
〔1〕 否定 東京地判平30.4.12判例秘書L07330496
〔2〕 否定 東京高判平30.926判例秘書L07320505
〔3〕 肯定 東京高判令3.9.28判例秘書L07620762
〔4〕 肯定 東京地判令4.7.14判例秘書L07731845

以下、その番号順に裁判例を検討する。

その際の肝は「お手盛り防止の仕組み」である(前記3(2))。

5 〔1〕否定 東京地判平30.4.12判例秘書L07330496

(1)事案の概要

本Q&A202・203「代表取締役社長による各取締役の個別報酬額の決定はフリーハンドか」(本誌 34763477 号)で取り上げた裁判例である。

それは、会社(その裁判の補助参加人。令和元年東京証券取引所市場第一部において上場廃止の株式会社...