会計知識録 第41回 何故、ROICスプレッドの改善が求められるのか?

~企業の会計・財務活動を解読~

 公認会計士 溝口 聖規

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はじめに

KPMGジャパンが主要上場企業321社を対象に実施した調査によると、ROICから加重平均資本コスト(WACC)を引いた「ROICスプレッド」(中央値)は2023年度がマイナス0.07%でした。マイナス幅は2020年度から0.88ポイント縮まり、ROICスプレッドが改善しているとのことです(2025年8月28日付日本経済新聞)。これは、投下資本から効率的に利益を稼ぐ力が資金提供者である投資家が期待する水準に接近しつつあることを意味します。

今回は、ROICとは何を表す指標なのか、ROEやROAとの違い、ROICスプレッドの意味及び企業がROICスプレッドを改善する意義について解説します。

ROICとは

ROICスプレッドを理解する前に、まず、ROICとは何か?から確認していきましょう。ROIC(Return On Invested Capital)は、投下資本利益率と言われ、企業が事業に投下した資本に対してどれだけ効率的に利益を生み出したかを示す財務指標です。

【ROICの計算式】

ROIC=税引後営業利益(NOPAT)÷ 投下資本

なお、一般に、ROICの算定に用いる投下資本は「運転資本+...