公益財団法人「日本電信電話ユーザ協会」技能検定部長 吉川理恵子さんに聞く 新時代のコミュニケーション 見えない相手への思いやりの伝え方【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2021年1月号に掲載されました。

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テレワークが推奨され、ビジネス上のコミュニケーションもメール、チャットなど非対面で行われることが大幅に増えました。そんな中、協会発足当初から、電話という非対面コミュニケーションをはじめ、メールコミュニケーション、携帯電話のマナーなど、直接会わない形でのコミュニケーションの指導・普及に努め、「電話応対技能検定(以下、愛称:もしもし検定)」の開発に携わった吉川さんに、ウイズコロナ時代のコミュニケーションについてお伺いしました。

公益財団法人日本電信電話ユーザ協会
2009年にスタートした「電話応対技能検定(もしもし検定)」を開発、運営する。この検定は「お客様に喜ばれるビジネス電話応対」の実現、電話応対のエキスパートとして即戦力になり得る社内の指導者の育成を目的とした検定制度。同協会では、毎年、全国規模で行われる「電話応対コンクール」の運営なども手がける。
電話応対技能検定ホームページ https://www.jtua.or.jp/education/moshimoshi/

――新型コロナウイルス感染症の世界的な広がりと政府の緊急事態宣言から半年以上が過ぎましたが、ウイルスの広がりは未だ収まってはおりません。このような中、電話の役割はどのように変化していますか。

一昔前まではビジネスでは電話が主流でしたが、最近のコミュニケーションツールは、メール、SNS、チャット、ビデオ会議システム、ビジネスアプリと、様々なツールがあり、そのメリット・デメリットを加味しながら、人や場によって使い分けています。では電話の需要は低くなったのかというと、一概にそうともいえません。
例えば、コロナ禍では、新型コロナウイルスの感染拡大を避けるため、多くの人にとって安心安全に配慮したコミュニケーション方法が第一となりました。営業職に就いている多くの方も、商談はメールなどで行うようになりました。そうした中、何気なく「ちょっとお声を聞きたくなって...」と電話をかけると、お客様が「人の温かみが伝わってきた」と喜んでくれたという話を聞きました。今までは急いで要件を伝える「迅速さ」が電話のメリットの一つでしたが、電話のあり方が変化しています。
電話は良くも悪くも気持ちが伝わりやすいという特徴があります。顧客との直接的な接点が減っているからこそ、電話での応対によっては企業のブランドイメージ向上にもなり、リピーターを作ることにもなり得ます。逆に、スタッフの応対によっては会社のイメージを下げる結果に直結します。電話応対が企業の将来の明暗を分けると言っても過言ではありません。

――「もしもし検定」は、電話を受ける・かける等の電話応対やビジネスマナー、日本語の基本知識等の従来型の「電話応対教育」に加え、コミュニケーション全般、人間力を育むための「考える力」を養う検定と聞いています。

もともと私どもの団体『日本電信電話ユーザ協会』は、国家資格である「電話交換手」の認定や資格発行と同時に、教育を行うための団体として発足しました。かつては電話と電話をつなぐ、交換手という人たちがいたのですね。当時の交換手は電話をつなぐときに、技術的な必要性からその内容を聞くこともできたため、守秘義務が重視される職業で、国家資格が必要でした。私たちは交換手の資格認定業務と同時に、「電話応対コンクール」を開催し、日本一の交換手を決めることで、交換手の質の向上に長年努めてきました。このコンクールは、技術が進歩して交換手が不要になっても、コールセンターで働く方々や一般社員の方などを対象に開催され続け、50年以上の歴史がある大会となっています。そして、約20年前から、企業全体のイメージアップを図るために、「企業電話応対コンテスト」を開始しました。こちらは会社の部署全体など、チームで参加するコンテストです。一人の社員の電話応対だけが素晴らしいのではサービスにばらつきが出るという声が企業から上ったことで始まったのです。応募いただいた企業にお客様を装って電話をかけ、その応対を審査します。
では、これらのコンクールやコンテストで好成績を収めるにはどうしたらいいのか。何を身に着けたらいいのか教えてほしい、そういった声が増えてきて、2009年に「電話応対技能検定(もしもし検定)」という検定資格を作ることになりました。

――現代は携帯電話しか持ったことがない若い世代も登場しています。どのような内容の検定なのでしょうか。

家庭に「家電」があり、幼い頃から電話の扱いやマナーを教わってきた世代と異なり、現代は「会社の電話の取り方がわからない」「電話が怖い」という人が多いです。一からビジネス上の電話のマナーを教えないといけませんから、幅広いビジネスマナー、聞く力、考える力、臨機応変力を培えるような問題づくりに力を注いでいます。この検定を新人研修に取り入れる企業が多いのはそのためでしょう。
検定試験は、実技と筆記試験の2つがあり、実技は模擬の電話応対を録音し、複数の審査員で審査します。筆記は、メール・SNSなどのツールも取り上げ、人やシーンに合わせて複数の中から適切なコミュニケーションアプリを選択し、どういう応対が最も適しているのかなどを考える問題になっています。検定が始まってから約10年間、毎月検定を行っていて(新型コロナウイルス感染拡大防止のため2020年は5・6月のみ中止)、1題も同じ問題を出していません。また、昨今のコミュニケーションの変化に対応した問題も出題しています。
この検定は能力開発型の検定で、「答えを考える検定」です。今から十数年ほど前はちょうど私自身が「電話マナーとは、サービスとは何か」と悶々と考えているときで、そのときに作った検定だからです。当時主流であった電話応対は、自社のPRやマニュアル応対が先行しているようなものでした。こういったことに違和感を覚え、マニュアルを頼りにするのではなく、お客様の気持ちに寄り添える応対に変えていかなければという気持ちが強くなっていました。マニュアルのみに頼らず、相手に配慮した電話応対とは何かと考えて至ったのが、新渡戸稲造の「マナーは愛」という言葉です。「マナーとは自分の体裁のためにあるのではなく、相手への思いやりを形にしたもの」というものです。
電話応対の基本は、目に見えない相手を想像し、思いやることです。それができれば、人・場・時代の変化に臨機応変に応対できます。臨機応変というのは、急いでいる人には端的に要所を掴めるような応対をし、背後で赤ちゃんの声がしたら「後ほどおかけした方がよろしいですか」と尋ねるといったようなことです。
このような人を育てるには、相手の話を聞く技術はもちろんですが、電話の相手とのやりとりを磨くスキルも学ばないとなりません。当時すでに大学の授業でも取り上げられていたコミュニケーション技術、「アサーション(自分の意見を押し付けない程度に発言する)」「メディエーション(双方の意見を聞き、仲介・仲裁する)」「カウンセリング」をコミュニケーショントレーニングとして取り入れ、教育体系を作りました。

――どのような企業が取り入れていますか。企業内で活用しやすい仕組みはありますか?

検定を始めた当初は、コールセンターなどの電話応対の専門職の方やサービス業に携わる方が多く受検するのではと思っていました。しかし、それらの方にとどまらず、様々な職種の方が受検されています。
一例をお話ししましょう。あるとき、私がコピー機を壊してしまい、シャープさんの修理の担当者がいらしてコピー機に詰まった「もしもし検定」の紙を見て、「ぼくも検定受けました」と認定証を見せてくれたのです。びっくりしました。本社に確認してみたら、修理受付オペレーターだけではなく、「待遇コミュニケーションを高める資格だから」と修理に行くエンジニアの教育にも導入したそうです。すると、電話応対の質はもちろん、オペレーターとエンジニアの人間関係もよくなったそうです。他にも、佐川急便さんやヤマト運輸さんなどの宅配サービス会社では、配達ドライバーの方も検定を受けています。
今では、SOMPOコミュニケーションズさんや東京海上日動火災保険さん、チューリッヒ生命さん、大同生命保険さんなどの保険会社、カルビーさんや日本ハムさん、日本食研ホールディングスさんなどの食品会社、山田養蜂場さん、ダイキン工業さん、富士フイルムさん、イトーキさん、グンゼさん、資生堂ジャパンさん、中央出版さん、トヨタレンタリースさん、京阪電気鉄道さん、大和ライフネクストさん、日本全薬工業さんなど、業種業態を問わず様々な企業で「もしもし検定」が企業内の社員教育のひとつとして導入されています。また、最近では、高校や大学、専門学校や職業訓練校にも導入が広がっています。 この10年で検定の最上級クラス、指導者級の合格者も増えてきました。指導者級の資格保持者はあっという間に388人(2020年10月末時点)にまで拡大しました。電話応対というのは、本来、業種によって正解が異なるものですから、きちんとした指導者がいれば、日々、どういう応対がベストなのかを社内で話し合うことができ、どんどん応対レベルが上がります。企業内に指導者としての有資格者がいると、企業内部で「もしもし検定」の研修・試験が開催できる仕組みになっています。社内で社員が指導者となって研修するので、社外の研修機関による研修・検定に比べてコスト削減になりますし、逆に試験の開催のための手数料が会社に入るようになっています。社員教育の一環として取り入れやすいので、自社の業務スケジュールに合わせた柔軟な研修も可能です。今後は、コロナ禍の制限下でも開催できるようにオンライン研修も整えていく予定です。
大企業の事例を挙げましたが、中小企業でも、この検定を取り入れているところが増えており、どんな規模・業種の企業でも取り入れやすい仕組み作りを心がけています。この検定が日本全国に広まることで、顧客や社内のコミュニケーションが今まで以上に良くなり、イライラの連鎖を断ち切りたい。そんな思いで取り組んでいます。

(文/平井明日菜 写真/本人提供)

あなたもチャレンジしてみませんか?(もしもし検定2級より出題)

■電話応対
 テレワーク中のお客様にWEB会議の予定を尋ねるメールを出しました。出した後読み直したら、間違っていることに気が付きました。1~4のケースの中で最もすぐに電話でお詫びし修正すべきことは、この中のどれでしょう。次の中から1つ選びなさい。
1.名前は、成願様だったのに成瀬様とメールしてしまった。
2.自分の連絡先電話番号の下二桁は07なのに70と書いてしまった。
3.WEB会議の開催希望日は12月7日(月)だったのに、12月9日(月)と書いてしまった。
4.「至急ご連絡ください」と書くべきところ、「至急ご連絡くさい」と書いてしまった。
【正解】3
(解説) どれも大変失礼なことですので、すぐにお詫びしなくてはいけません。しかし、この中ですぐに修正しなくてはならないのは、日程です。お客様は12月9日(水)で日程調整をしてしまうかもしれません。その場合、二度手間をかけることとなります。1.2.4は、まずはメールでお詫びしても間に合うでしょう。このように、急ぐときは電話で連絡するのが1番確実です(ただし、複数人にメールしている場合はメールの方が早い)。そもそも、メールを発信する前に、必ず読み直してから発信しましょう。

■マナー
 プロジェクトメンバー4人のオンライン会議中に音声が途切れ、会議の内容が一部分からなくなってしまいました。オンライン会議中の対応として適切でないものはどれですか。次の中から1つ選びなさい。
1.会話が途切れたところで「○○(名前)です。先程、音声が途切れてしまいました。申し訳ありません。△△ということでよろしいでしょうか」と直接尋ねた。
2.会議の進行を妨げたくなかったので、黙って聞いていた。
3.インターネットの接続状況を確認した。
4.オンライン会議システム上のチャット機能を使い、全員に向けて会議の内容を確認するメッセージを送った。
【正解】2
(解説) オンライン会議は音声が途切れてしまったり、映像が停止してしまったりと対面の会議とは違ったトラブルがあります。オンライン会議の場合、進行役や他のメンバーの状況が把握しにくいため、質問するタイミングを逸してしまいがちですが、2のように会議の流れを正しく理解しないまま黙って参加しているのは、会議に参加する姿勢としても問題です。まずは3.4のように会話を遮らない方法で確認します。それでも状況が変わらない場合はタイミングを見計らって声掛けし、不明点を確認して会議に臨みましょう。


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