認定NPO法人「アール・ド・ヴィーヴル」アートディレクター 中津川浩章さん 理事長 萩原美由紀さんに聞く 障害がある人と社会をつなぐアート【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2021年2月号に掲載されました。

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2018年6月に「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」が公布・施行され、障害者のアート活動への支援が加速し、アート活動を通じて社会に参画する障害者が全国で増えています。また、2021年3月からは「障害者雇用促進法」の法定雇用率が改定になり、民間企業法定雇用率が2.3%へ引き上げられますので、障害者雇用について一般企業の関心も高まっているところです。障害者と社会をアートという仕事でつなぐ活動について、認定NPO法人「アール・ド・ヴィーヴル」理事長の萩原美由紀さんと、芸術家でアートディレクターの中津川浩章さんにお話をお聞きしました。

アーティスト集団であるということ
 新型コロナウイルスの感染拡大が一時的に落ち着いた初秋、アートによる表現活動が盛んな認定NPO法人「アール・ド・ヴィーヴル」のアトリエを訪れました。感染拡大防止のため、扉や窓をできるだけ開放しつつ、施設の利用者数を制限しての活動を強いられていましたが、10人程度が白い画用紙に向かって絵筆をとっていました。背中を丸めて黙々と画用紙に彩りを重ねる人、分厚い図鑑を机に広げながら色鉛筆を握る人、絵を描くのはそっちのけで隣の女の子とおしゃべりに花を咲かせる人。様々なスタイルで絵を描くアーティストの姿がありました。
 「机に座って描くときもあれば、床で描くときもありますし、創作スタイルは自由です」と、理事長の萩原さんは朗らかに話します。

 近年、障害のある人たちの芸術活動が、ただの福祉やリハビリの一手段ではなく、アート「アール・ブリュット」として、スイスやフランスで評価されています。「アール・ブリュット」は、20世紀のフランスの画家ジャン・デュビュッフェが「正規の美術教育を受けずに、独学で開発した表現力で作品を作る人の創作物」と定義しています。「野生の芸術」とも言われ、アーティストは障害者だけでなく受刑者などもいます。海外では「アール・ブリュット」の展覧会が度々開催され、絵画が高値で販売されています。こういった動きを背景に、日本では2018年に改正障害者総合支援法が施行され、様々な場や障害者施設でのアート活動の促進が図られるようになりました。

 法改正以前から、アートを活動の主体にしてきた「アール・ド・ヴィーヴル」。その団体名はフランス語で「自分らしく生きる」という意味です。同法人は「障害があっても自分で選択していく人生を送ってほしい」という願いのもと、障害がある人の生きがいや自己表現を後押しし、それが仕事になる仕組みを作ろうと、アート活動を始めました。

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(写真:秋をイメージして紅葉のカラーを重ねていく)

アートディレクターとの出会い
 「アール・ド・ヴィーヴル」の活動母体は、ダウン症児者を育てる親子のための「日本ダウン症協会」の神奈川小田原支部「ひよこの会」でした。理事長の萩原さんは1996年にダウン症の子どもを授かったことをきっかけに、「ひよこの会」に入会。2002年に会長に就任すると、学習会や交流会、フリーマーケットなどの地域イベントへの参加、知的障害者が主演する映画の上映会を開催するなど、多岐にわたる活動をしてきた経緯があります。

 活動を通してダウン症の子どもたちの将来の仕事を考えたとき、萩原さんの目の前に見えてきたのは、「就労継続支援B型事業所」の存在でした。就労継続支援B型事業とは、障害や病気のために一般企業で働くことが難しい方に、働く場を提供するとともに、その知識や能力の向上のために必要な訓練を行うことを目的とした事業所です。事業所と利用者は雇用契約を結ばず、利用者が受け取るのは賃金ではなく「工賃」であり、最低賃金の規定は適用されていません。

 厚生労働省によると、2018年度、就労継続支援B型事業所は全国に11,750ヶ所あり、工賃の全国平均は16,118円(月額)。時間額にすると214円です。工賃は年々向上しているものの、障害者が自立するには厳しい金額です。また、内職などの単純作業や軽作業が中心の就労継続支援B型事業所が多く、企業での一般就労への結びつきにくさ、生きがいのなさといった問題点も指摘されています。
 萩原さんは作業所の現実を知り、「障害があるからこれくらいしかできないだろうと決めつけるのではなく、子どもたちが持っている才能を再発見する場がないなら作ろうと思うようになりました。

 そこで、まずは2012年から、ダウン症児だけでなく、様々な知的障害児を対象としたアートのワークショップ『ひよこあーとぷろじぇくと』の月1回の定期開催を始めました。その立ち上げのときに、アートディレクターとして関わっていただきたいとお声をかけたのが障害者アートの第一人者である中津川浩章さんでした」と話します。

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(写真:アール・ド・ヴィーヴルの事務所に掲げられた看板。ワークショップで書かれたアルファベットを組み合わせてロゴにデザインされた)

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(写真:企業向けにオーダーメイドの名刺を作るサービス「『つながるカード』プロジェクト」)

生きることは表現すること
 中津川さんは25年ほど前から、芸術家として活躍するだけでなく、障害の有無にかかわらず、あらゆる人たちのガイド役として表現活動をサポートしてきました。東日本大震災後は、被災した人たちを対象に ワークショップを行った経験もあります。ガイド役の中津川さんは、利用者の様子を観察しながら声をかけていきます。描くものが決まらない人には「今日、ここに来るとき何を見た?」と問いかけます。すると、それに応えるように赤い絵具で線を引き始める利用者。「そっか、紅葉がきれいだったんだね」と中津川さんが反応します。こういった「対話」の積み重ねによって、展示会のテーマを企画からポスター制作、作品の展示方法を決定していきます。

 「作品を通してコミュニケーションしています。普段は言葉数が少ない人から言葉が出てきたり、たとえ言葉がなくてもその人の世界観が見えてきたりします。そして、次はこんな色を使いたい、こんな道具を使ってみたいと意欲が湧いてくる様子は、見ていて楽しいです。それに絵を描くことは、当人の癒やしでもあります」と中津川さん。表現活動によって問題行動が目立たなくなった例もあるそうです。中津川さん自身も、「描くことをしていなかったら狂っていたかも」というくらい、表現活動と生きることは切り離せない関係だと言います。

 「誰しもが内に持っている痛みや不自由さが、表現するときに大きなパワーになるのです。特に障害のある人たちは、言葉が操れなかったりします。自分のことをわかってもらいたい、感じてもらいたいという強い想いがあるからこそ、表現に託すものが深くて大きくなり、観る人に衝撃を与えます。できるだけ先入観を排してゆっくり作品を見てほしいですね」

障害者の自立と社会参画
 「アール・ド・ヴィーヴル」では自分のできること、得意なこと、やってみたいことを活かすことができるように、絵だけでなく、織物・陶芸・ダンス・ヨガ、農作業など、利用者がその日の気分に合わせて何をするか選びます。販売するもの作りについても、マイペースに手掛けることができます。

 「自由に創作できるようにと、私たちは環境を作っているだけです。作品がいつできあがるのか誰にもわかりません。利用メンバーの一人が作る織物の作品はとてもカラフルな色使いで、ベルトやコースターなどのグッズとして人気があるのですが、どんな色のものがいつできあがるのかもわからないので、もし注文が入っても"後日、出来上がったら連絡します"という具合ですが、みなさんちゃんと完成を待ってくれます。ここでは、決められたことをするのではなく、何をするか自分で決定します。なぜ自分で選び決めることを大切にしているかというと、自分で決めたことを最後までやりきる気持ち良さを知ると、自分に自信がついていくからです」と萩原さん。

 この活動の場をさらに発展させ、生きがいを持って生活できる「仕事の場」にしたいという想いから、作品を商品化するための作業や展示販売、オーダーメイド名刺制作、作品のリースといった事業も幅広く展開しています。特に作品のリースは、月額5,500円(税込)からでき、数ヶ月に一度のサイクルで作品を額に入れて届けてくれるもので、たいへん人気があるそうです。作品の梱包・配達にも事業所のメンバーが関わっています。工賃については、「まだまだ思い描いている金額になるまでには課題があります。仕事の対価としてもっと上を目指していきたい」と萩原さんは言います。

 さらに2021年の4月からは重度障害とされる方々の支援ができる場所をもっと増やしたいと、新しくカフェを併設した生活介護事業を始める予定だという萩原さん。
 「ダウン症、自閉症、知的障害、肢体不自由、精神障害、発達障害、難病など、様々な障害がある人たちが、自分らしく生きることを追求できる場を作り、個性を輝かせてもらいたいと思っています」と志を語ってくれました。
 個々の可能性や行動を狭めてしまうことのない方法は、企業で障害者雇用をする際にも活かせるヒントがたくさんありそうです。

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(写真:完成した絵は展覧されるほか、製品に仕上げられて販売されている)

認定NPO法人 アール・ド・ヴィーヴル
神奈川県小田原市久野906 アネシスヒルズ102(※2021年4月に移転予定)
電話番号・FAX共通:0465−25−4534
Eメール:info@artdevivre-odawara.jp(理事長・萩原美由紀)
ホームページ:http://artdevivre-odawara.jp

(文/平井明日菜 写真/上垣喜寛)


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