今月の哲学者とキーワード:マイケル・ポランニー「暗黙知」【マネジメント倶楽部・もし、哲学者が悩めるリーダーに出会ったら】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2020年2月号に掲載されました。
今月の哲学者とキーワード マイケル・ポランニー「暗黙知」
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今月の悩み 若手に職人の技を伝承したい

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 私は機械の部品を作る会社を経営しています。従業員は数十名と小さい会社ですが、高い技術力が買われ、大手電機メーカーなどと取引させてもらっています。 当社が高品質の部品を生み出せるのは、熟練工の技巧があってのことです。彼らはその日の天気(気温や湿度)を肌で感じ、1000分の1ミリ単位で作業の調整をします。ところが、最近は、熟練工が年をとり、定年が近くなっています。彼らが引退してしまったら、優れた製品を生み出すことが危うくなります。そうなる前に、若い工員に技を伝授したいのですが、言葉で説明しようと思ってもうまく説明ができません。どう教育すればよいでしょうか。

答え
 マニュアルに残そうと思っても、匠の技は言葉にしづらいものがあります。簡単に伝えることはできません。こうした状況では、マイケル・ポランニーの考えが有効なのではないでしょうか。彼は熟練工が有する技やノウハウなどを「暗黙知」と名付けました。知識には、「形式知」と「暗黙知」があります。形式知というのは、方程式やデータ、明示化された手続きなどの形で伝達できるものをいいます。
 他方、暗黙知というのは、熟練工の技のように、言葉にならない暗黙の要素が含まれている知識を指します。暗黙知の特徴は長年の体験に根差している点です。一朝一夕には身につかないので、習得するには弟子は熟練工のそばで一緒に働き、「経験を積んで体で覚える」しかありません。
 かつて、日本には徒弟制度というものがありました。まず、弟子は師匠の仕事を目で学び実践します。最初はうまくいきません。そこで、師匠の技を目にしながら、自分との差を見つけ出し再び実践します。何度も繰り返すことで、技を身に着ける日が来ます。技がきちんと伝わるかどうかは、師匠が言葉として伝えられなかった内容を弟子が自分で発見できるかどうかにかかっています。
 作業現場は生き物。刻々と状況が変わります。その中で、常に高品質の部品を生産するには、弟子は教わるのではなく、自分で覚えることが必要なのです。師匠が手取り足取り教えたほうが効率は良いように思えます。暗黙知の伝授に必要なのは効率重視の社会で忘れ去られた大切なものを取り戻すこと、とも言えます。

マイケル・ポランニー(1891年3月11日 − 1976年2月22日)
ハンガリー、ブダペスト生まれ。ブダペスト大学に進学。医学研究者となった後、物理を学び物理化学者に。この頃、アインシュタインと手紙のやり取りをしたこともある。その後、ナチスが政権を奪取。ユダヤ人であるため、イギリスに亡命。戦争を機に哲学者に転向し、暗黙知などの説を唱えた。


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