ビストロ・コマ 店主 生駒広平さんに聞く 新型コロナ禍で大打撃を受けた飲食店の生き残り戦略【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2023年2月号に掲載されました。

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 東京商工リサーチ発表の飲食業倒産状況によると、2021年1~12月における、負債1,000万円以上の飲食店の倒産件数は648件と、過去最多の2020年の842件より減少しましたが、2021年の倒産件数の約半数は新型コロナ関連の倒産であり、コロナ禍による影響の大きさが窺えます。千葉県船橋市で飲食店を構えるビストロ・コマの店主生駒さんに、これまでの3年間の飲食店の状況とこれからの戦略について、お話を聞きました。

 居酒屋チェーンの大量閉店がニュースになっています。外食をしない人が増えるなど、コロナで人々の生活スタイルは大きく変わりました。飲食店のなかでも、特に居酒屋業態を取り巻く状況は厳しく、居酒屋チェーン「金の蔵」は、最盛期の約100店から2021年には8店舗まで激減させています。また、大手外食産業のワタミもここ2年半で居酒屋店舗を6割まで減らし、唐揚げや焼き肉など新業態に転換して「脱居酒屋」の動きが加速しています。

営業体制の見直しを迫られる

 ビストロ・コマはカジュアルな値段のフレンチと自然派ワインを提供するお店です。千葉県船橋市の西船橋駅から徒歩2分の場所にあります。近隣に中山競馬場がある影響で、駅北側にはキャバレーやナイトクラブ、バーなどの深夜営業のお店も多く、活気がある町です。
 オーナーの生駒さんは、この3年間を振り返って話をしてくれました。「客層は悪くないし、客単価が良いお客さんが多い地域です。新型コロナ感染拡大が始まる前はお店にお客さんがいつも入っていて順調な経営でした。コロナ禍の最初の時期である2020年の春先は、新型コロナがどんなものかもわからず、世の中が混乱している状態で、休業補償の対象に当てはまるとは思えず、休まず営業するしか生き残る道はないと思っていました。そこで、スタッフとテイクアウトのメニューを考えました。しかし、基本的にみんな外出しないわけですからお客さんも来ないので、売上は激減です。どのくらい減ったかというと、例年4月は本来繁忙期ですので、それと比べると8割減でした。ようやく補償などが受けられるようになると、何とか帳尻が合うようになりました」
 また、2020年の春は、店舗縮小を決断した時期であり、結果的にそれも功を奏しました。もともと、船橋市内で3店を経舗営していた生駒さんでしたが、2020年東京オリンピック・パラリンピックの影響で不動産価の上昇が始まり、1店舗に絞ろうと思ったと言います。
 「家賃が1.4倍近くまではね上がりました。この地域でも地上げのようなことも行われていました。そういう状況があって、自分の責任が持てる範囲でこぢんまりやるのがいいかなと思いました」
 22歳で大手チェーンの飲食店に就職し、独立したらどんな店舗経営をしたいかというイメージがすっかり固まっていた生駒さん。利益が出たら貯金をするよりお金を回して雇用を生み出していく飲食店になりたいと思い、ゆくゆくは10店舗、20店舗、50店舗というように、トントン拍子に事業を拡大していくビジョンがありました。2007年に独立した当時は、カジュアルなフレンチビストロというのはまだまだ数少ない存在で、千葉県から全国展開という野望がありました。しかし、3店舗まで拡大はしたものの、計画が前に進んでいないことに気が付きます。「大きなことを言っていたけど、実はこだわりはそこではなかった。コロナ禍のこともあり拡大を見直そうと思った」と生駒さんは言います。

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(写真:地元のお客さんでにぎわう店内。)

コロナ禍で可視化されたこと

 西船橋店がテイクアウト販売に切り替えた初日のこと。エプロン姿で道路沿いの店頭に立って惣菜を売っていると、通りすがりの女性客が、一度通り過ぎたにもかかわらず引き返してきました。そして、いつもと違うお店の様子を見て、300円のピクルスを指し、「大変そうね。1つちょうだい」と購入してくれました。
 「感動しました。"助けて"と言うと助けてくれる人がいるんだなと実感しました」
 もちろん直接「助けてください」と声に出したわけではありませんが、その雰囲気を察した地域の人がいたのです。そのときから生駒さんは、「お店として、辛いときに手を差し伸べてくれた人たちを大事にしていこう」と思ったそうです。
 「この先、コロナがいつ収束するかわかりませんが、そのとき、この方たちが通い続けられるお店にしたいと思いました。コロナ禍前までは、とにかく数多くのお客さんにお店に足を運んでもらうことでビジネスが成り立っていました。昔からお客さんはみんな平等に『神様』と叩き込まれていたので、そう思ってきました。しかし、ピンチのときにお店を支えてくれたお客さんはやはり特別だと思うようになりましたね」
 ビストロ・コマを支えてくれた常連のお客さんとのつながりは、それまでそれほど強いものではなかったのですが、コロナ禍でお互いのことをより深く知る機会が増えて、助け合うような関係ができました。例えば、外出自粛が叫ばれていた2020年4月のことです。当時、マスクはどこにいっても品切れでした。そのとき、お客さんの一人が布マスクを手作りしているという話から、「じゃあ、お店で売ってみようか」となりました。SNSなどで拡散すると、布マスクを目当てに人が来てくれてついでに料理をテイクアウトしてくれるようになりました。常連のお客さんから「大変だろうから、1万円の料理を詰め合わせてプレートを作ってほしい」というありがたいテイクアウトの注文をもらうこともありました。
 一方で、当時は『自粛警察』と呼ばれる人たちもいて、「時短営業といっているのに、時間外でも営業している」と通報され、 2ヶ月くらい営業時間短縮協力金の振り込みがないときがありました。スタッフと、ワインと食べ物のペアリングを考えつつ、メニューのブラッシュアップについて会議していたところを、営業していると勘違いされたのでした。
 「コロナ禍を経験して、お客さんとの向き合い方が大きく変わりました。お客さんにもいろいろなタイプの方がいて、それぞれニーズが異なります。たくさん食べたい、子ども連れ、お酒を飲む、飲まないなど、そのときの状況でお店選びをしています。誤解を恐れずに言うと、お店側にも来てもらいたいタイプのお客さんがいて、お店側もその要望を"伝えてもいい"と思えるようになりました。うちのウリは、ワインとそれに合うフレンチの食事なので、お酒を飲まない方には向かないお店です。来てくださるお客さんには、少なくともうちの特徴を知っていただきたい。今までであれば、「お客様は神様だから、こちらの要望を言ってはいけない」という強迫観念がありました。でも、ピンチを支えてくれた、ここでしか飲めないワインを楽しみにしている常連のお客さんが来たときに、満席で入れないようなことはしたくありません。コロナ禍でどんなお客さんを大事にしなきゃいけないかを学びました。あと、年を取って『お客様は神様』という、若い時に叩き込まれた教えから解き放たれました」と生駒さん。決してお客様をランク分けするということではなく、ニーズに合った時間を提供できるような工夫について、コロナ禍をきっかけに考えたということでしょう。

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(写真:看板メニューのジビエ料理。)

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(写真:この日は生駒さん自ら料理をふるまっていた。)

コロナ禍の「新たな時間」を未来へ投資

 コロナ禍で時短営業となった多くの飲食店。社員たちはその間どのように過ごしていたのでしょう。ビストロ・コマで一番増えたのは「スタッフ研修」です。スタッフ同士のコミュニケーションのため、また、より良いものを提供するための準備期間になるように、積極的に研修を行いました。
 「昔から、会社の経費で社員研修はして いましたが、回数が増えたのはコロナ禍のときです。コロナ禍前であれば、ワインの勉強のためにフランスに行くこともありましたが、それはできないので、今は国内のレストランに行ったり、取引のある農家の畑に行ったりしています。畑であれば、野菜を収穫し、その場で料理してペアリングを試みます。若いスタッフに"こんなに美味しい野菜があるんだ""こんなに料理が上手な人がいるんだ""大人ってこんな遊びをしているんだ"と知ってもらいたい。若いから、知らないことがたくさんある。リアルなものを見せようと心がけました」
 そして、通常より売上は落ちても、開けられるときはお店を休まないで開けると決められたのは、仕事や知識に飢えている若いスタッフがいたからです。
 「もっと"美味しい料理が作りたい"、"美味しいワインを知りたい"そういう貪欲なスタッフがアルバイトを含めているから、それに応えていきたいという想いがありました。そして、新型コロナの流行が落ち着いてお店を開けたとき、いままでと一緒のクオリティではダメだと思いました。実際、野菜への思い入れも、現場である畑に行くと違ってきて、シェフが冷蔵庫で野菜を腐らせなくなりますし、創意工夫をし始めます」と生駒さん。
 ウクライナ問題や円安に伴う物価高騰などの影響で、景気回復は不透明です。それに追い打ちをかけるように第8波がやってきました。支援金等がなくなった2022年の7~10月の4ヶ月は、これまで何とか持ちこたえてきた飲食店にとっても過酷な時期となりました。多くの飲食店では、今もコロナ禍前の状況には戻っていません。しかし、どんなに経営がピンチのときでも、社員を大切にし、その向上心を高め、成長させるように仕向けていくことこそ大事であり、それが後々の会社の成長と経営にいい影響を与えてくれるでしょう。これは、飲食店経営者の手腕にかかっています。

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(写真:研修で行った千葉県内の農家「キレド」の畑にて。)

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(写真:農家の作業を手伝う生駒さん。)

生駒広平(いこまこうへい)
1979年生まれ。大手焼き鳥店に就職後、独立。2007年に千葉県船橋市にカジュアルなフレンチを提供するbistro coma(ビストロ・コマ)を開店。
bistro coma西船橋店 千葉県船橋市西船4−23−11 TEL 047−401−5285

(文/平井明日菜 写真/上垣喜寛)


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