梅原 真さんに聞く土地の力を引き出すデザイン【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2019年4月号に掲載されました。

「ないものはない」(島根県の離島、海士町のスローガン)を始め、ユズの産地として全国的に有名な高知県馬路村の「ぽん酢しょうゆ ゆずの村」のデザインなど、数々のキャッチコピーや商品デザインを手がけ、多くのヒット商品を生み出してきたデザイナーの梅原真さん。高知というローカルに拠点を置き「一次産業×デザイン=風景」という方程式で活動。地方に埋もれている商品に光を当てる梅原さんの仕事は、「ローカルデザイン」と言われています。

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梅原 真(うめばら まこと)

デザイナー。高知市生まれ。放送局の美術スタッフとして勤務後、1980年よりフリーランス。1988年、かつおを藁で焼く「土佐一本釣り・藁焼きたたき」をプロデュースし、結果的に高知県土佐佐賀町のかつお一本釣り漁業を守る。1989 年、高知県大方町で「砂浜美術館」をプロデュース。4kmの砂浜を巨大なミュージアムに見たて、2,000枚のTシャツが砂浜で「ひらひら」する風景を作る。この取組みはリゾート開発計画を遠ざけ、モンゴル、ハワイなど世界に広がった。「土地の力を引き出すデザイン」で2016 毎日デザイン賞・特別賞受賞。
主な著作に『ニッポンの風景をつくりなおせ』(羽鳥書店)、『おいしいデ』(羽鳥書店)。


デザインはコミュニケーション

難しい言葉、聞いたことがない言葉。そのままでは、人に通じにくいでしょう。同じように、いくら美味しくても売れない商品があります。その価値が伝わらないままでいるから売れないんです。その良さや価値がぱっと相手に伝わるようにするのがデザインの役割だとボクは思っています。

だから、一般的には商品のデザインを「パッケージデザイン」といいますが、本当は「コミュニケーションデザイン」だとボクは言っています。商品が持つたくさんの情報を凝縮された形にして、端的に伝える。これがコミュニケーションデザインです。作り手は商品にかける思いが強く、伝えたいことがたくさんあります。それを全部、業界用語を使って説明しようとすると、消費者には伝わらない。もっと、「美味しい」をわかりやすく伝えないと。ボクは、まず商品に関するたくさんの情報を頭に詰め込んで、引き算していく形でデザインをします。円錐に情報を詰め込み、それを逆さまにして、円錐の先から一滴の水を絞り出すようなイメージです。ポイントは、

1 常に「風景」を思い浮かべる
2 情報を詰め込みすぎない
3 デザインをしすぎない

デザインをするとき、ボクの頭の中には常に「風景」があります。例えば、四万十川で育った青のりのパッケージデザインを依頼されたときは、どんな人が採って、どんな人が干したのか、買い手が思わず想像してしまうデザインを心がけました。デザインが入りすぎると、変な違和感が生まれてくるように思います。デザインと商品そのものは一体で、かけ離れてはいけないんです。だから、商品が生み出される現場に行って、作り手の話を聞く。こんなことをしているので、デザインを生み出すのに1年以上かかることもあります。
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梅原真が悩んだデザイン

四万十川流域で育った栗の商品のデザインをしたときは、試行錯誤しましたね。2016年秋に伊勢丹デパートで行われた「フードコレクション」フェアに出店が決まり、商品名の「しまんと地栗」の、「地」の持つ力をもっとデザインで引き出せないかと頭を悩ませました。

何日も机に向かっていると、いつの間にか、どうにかして有名和菓子屋の「虎屋」っぽくできないかなと思ったりするんです。ふと、デザインで付加価値を上げて高級に見せようと考えていた自分に気が付き、恥ずかしくなりました。四万十の栗山と、ここで働く人たちを置いてきぼりにしたものを作ってどうすると、自分を戒めました。

頭をゼロ地点に戻し、「山から出てきました」という表情のパッケージが決まりました。「地」の文字を「○」の中に入れて、「この紋所が目に入らぬか?○地であるぞ!」というようなものです。「地」の言葉に、栗山がケミカルフリーだという価値を表現させました。
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悩み抜いてできた「ジグリキントン」のパッケージ

「地」のように、違和感がある言葉は人の頭にとどまるんですよ。そこにデザインが加われば、商品が発信するコミュニケーションの量を増やすことができます。こうして、四万十の山の風景と並べても恥ずかしくないデザインに仕上がりました。商品を買った人のアンケートの回答に「騙されていない気がする」と書いてあるのを見たとき、ボクの思いはちゃんと伝わっているなと感じました。結局、フェアでは初日に73万円売り上げ、それが1週間続く結果となりました。「地栗」の「地」の文字によって、買う人の頭に「誠実なものづくり」「安全」「地域の景色」というイメージが伝わったのでしょう。高知の田舎の山と、東京のデパートの地下がつながったなと思いました。人々は意識の奥底にそれぞれの「風景」を持っていて、地域の良さ、土地の自然、土地の人、文化に裏付けされた根っこのある商品を、求めているのではないかと思います。だからデザインも、人を騙すようなものはいけません。

「一次産業×デザイン=風景」という方程式

1987年、カツオの一本釣り漁師が訪ねてきて、「このままでは船が潰れる」と言いました。高知といえば、カツオの一本釣り。2月になると、岸壁で家族が見守る中、漁師は海に出る。そこから約10 ヶ月もの間、海の上で暮らすんです。漁獲高の低迷や、魚価の低迷でどんどん廃船していくなか、この風景がなくなるのかと思い、話を聞きました。そのうち、子どものころ、うちのばあさんがカツオを藁や茅で焼いていたことを思い出し、「漁師が釣って、漁師が焼いた」というフレーズが浮かんできました。これが一番美味しそうに思えました。商品だけでなく、商品名、会社のロゴ、キャッチコピーをすべて考えました。しばらくすると、これらの商品は年商20億円の産業になりました。一次産業にデザインをかけ合わせたら、カツオの一本釣りという1つの風景が残ったんです。ここから、「一次産業×デザイン=風景」という方程式でニッポンの風景を残したいと考えるようになりました。やはり、青森から鹿児島まで同じ風景に染まってしまったらつまらないという思いがあります。その土地の持つ個性を守るには、土地の風景を作っている一次産業を守らないといけないと思ったわけです。
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「土佐一本釣り・藁焼きたたき」のパッケージ


引っ越しも「デザイン」!?

ある風景のために、住まいを変えたこともあります。台風が多い高知県には、沈下橋という珍しい橋があります。これは、台風などで川が増水したとき、水に埋もれる橋です。埋もれても欄干がないので、水圧で橋が壊れることがありません。四万十川には、沈下橋が47本かかっていて、独特な素晴らしい風景を作っているのですが、橋が水に沈むと住民は橋を渡れなくて不便ですよね。ですから約30年前に、沈下橋は壊し、洪水になっても浸からないでっかい橋に建て替えようという意見がでました。ボクはこれに反対でした。沈下橋には他の土地にはない価値があると思っていたからです。でも、いくら沈下橋を残そうと声を上げても、高知市に住むボクが言うんじゃ地元の人には説得力がありません。そこで、高知市から沈下橋のすぐそばに引っ越しました。こうして5年ほど、実際に橋のそばに住んでみたんです。引っ越しそのものが「デザイン」という思いでした。

どんな土地でも長所、短所があります。ボクの仕事は、その土地の人とよそから来た人が「ここは素敵だね」と思うような、土地の「個性」や「力」を引き出すデザインをすることだと思っています。結局、沈下橋は、それを見るためにわざわざ東京から人がやってくるほどの観光スポットになりました。

沈下橋のそばに住んだことから新たな試みもスタートしました。「しまんと新聞ばっぐ」です。嵐が去って四万十川の水が引くと、辺りに生えている木にいつもポリ袋が引っかかっているんです。最後の清流と言われている四万十川ですが、環境破壊が進めばこの川の美しさがなくなるかもしれないと、ポリ袋を拾って歩きました。そこから「四万十川を新聞紙で包もう」というコンセプトが浮かび、四万十川流域で販売される商品は、レジ袋ではなく新聞バッグに入れて持ち帰ってもらおうと思いました。ボクが子どものころ、魚屋で買い物するとイワシを新聞紙で包んでくれていました。これがどうにもかっこよく思えて。そうしたら近所に住む女性が、新聞紙を折ってノリづけしたバッグを作ってくれました。2003年のことです。それから地元の道の駅で販売を開始すると好評で、ニューヨークの高島屋、ロサンゼルス、ボストンのミュージアムショップ、ロンドンのポール・スミスにも輸出しました。デザインの国際的な祭典「ミラノ・サローネ」の関連イベントからも声がかかりました。今は、2020年のミラノデザインウィークにむけ、バイリンガルパンフレットや動画を制作中です。このバッグからは言葉のいらないメッセージが伝わって、いつの間にか四万十川を飛び出し、「地球を新聞紙で包もう」に変わっていました。
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しまんと新聞ばっぐ

「デザイン頭」を持つ

四万十の栗のデザインを依頼された当時、15年以上も放置された栗山を見て浮かんだ言葉は「絶体絶命」でした。かつては、年に800トンもの生産量があった栗ですが、生産者の高齢化と中国産の栗との価格競争によって、2013年には18トンまで落ち込み、多くの栗園の面積も激減。経済性を失った栗園に通って、わざわざ栗を拾う人もいなくなり、必然的に農薬も入れなくなっていました。ボクは、これは逆にチャンスだとひらめきました。ケミカルフリーは、今では「あんしん」に置き換わります。誰も見向きもしなくなった栗山が、急に輝きだします。ボクの頭の中で、栗山の衰退という「ピンチ」は、新たな価値にチェンジしていきました。これをボクは「デザイン頭」と言っています。こうした発想の転換を多くの生産者の人たちが行うようになれば、ボクは必要なくなります。そして日本の一次産業はまた元気になり、風景が豊かに保たれると思います。

今、「一次産業は儲からない」という言葉で表されることが多いですが、生産者が本気で作ったいいものは必ず売れると思っています。地方と呼ばれるところは、どこもピンチだらけです。ここにデザインを入れて、背中を押して市場を開いていくのがボクの仕事です。そうすると、「もうアカン」と思っていたこともそうではなくなってきます。だから全国あちこちに出かけては、東京は東京、地方は自分で考えろ!と檄を飛ばしています。
(取材・文/平井明日菜、写真提供/梅原デザイン事務所)


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