税理士はAIに駆逐されるのか?<3分で読める税金の話>

最近、このような質問を受けることが多くなってきました。オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授が2013年に発表した論文では、702の職業のうち47%が10年から20年後に機械に代替されるとして話題を呼び、日本でも47%という数字をメディアが取り上げ注目を集めました。確かに最近の技術の発展は目覚ましいものがあります。税理士はAIに仕事を奪われてしまうのでしょうか。この質問に対する答えを考えるには、敵を恐れるばかりではなく、まず敵を知る必要があります。

AIとは?

AIの和訳は人工知能ですので、あたかも人間の知能と同等レベルの能力を持っていると勘違いしそうになりますが、まだそのレベルでの人工知能は存在していません。現在のAIは正しくはAI技術(AIを実現するために開発されているさまざまな技術)ですが、本コラムではAIで統一します。
AIはコンピュータです。コンピュータがしていることは計算(四則演算)です。コンピュータは計算機です。これは、AIが足し算と掛け算の式に翻訳できないことは処理できないことを意味します。
AIが仕事をするにあたって出力している答えは、統計的手法によって一番可能性が高いと予測したものを出力しているにすぎません。計算機であるAIは何が正しいのか知りませんし、意味を理解していませんので、AIが出力した答えが合っているかどうかは人間が確認する必要があるのです。

AIによる処理のあと人間の確認が必要となる

これを税理士の仕事内容に置き換えてみましょう。記帳業務を例に挙げてみます。甲という企業からの入金は売掛金の回収だと一度覚えさせれば、次回からはそのように処理してくれます。しかしながら、もし、それがたまたま売掛金ではなく預り金だったとしても、コンピュータはいつもの通り売掛金の回収として処理し続けます。
もちろん、1を1と記録する、これは人間よりもコンピュータの方が正確に成し遂げることは誰でも疑いがないでしょう。しかしながら、その処理が正しいかどうかを判断することはAIにはできません。人間が確認するしかありません。何万、何億ものビッグデータで勉強させれば当たる確率は上がるでしょうが、あくまでも確率が上がるだけなのです。AIの選択が正しいかどうかを判定できるのは人間なのです。

必要とされる人材

1を1と記録するのはコンピュータの方が人間よりも正確と先ほど述べました。そのため、入力作業は必要なくなっていくと思われますが、この取引にはこの仕訳と設定したり、それから外れた場合の訂正の作業は変わらず人間が行うことになりますので、取引の内容と会計・税務のルールを理解している人材が不要になることはないでしょう。ただ、税理士事務所においてこのチェック能力は、自分自身で起票作業を経験することで身につけてきた能力でもありますので、税理士事務所のスタッフ育成には今後一層の工夫が必要となりそうです。

コンピュータは人間の常識・感情は苦手

人間の常識や感情を足し算と掛け算の式で表現することは今のところ無理なようですので、AIには人間の常識や感情を理解することは難しそうです。日本の会計・税務処理は正解がひとつではなく、複数の選択肢が認められています。税理士と経営者が相談し、時には経済合理性から離れた感情さえも加味して選択し、決算書・申告書を作成してゆくこのプロセスではAIの出番は今のところなさそうです。

いかがでしょうか。職業としての税理士が必要なくなるわけではなく、一部の単純作業が減少し、むしろ税理士としての能力が必要とされる仕事に集中できるようになるのではないかと私は感じています。豊富な知識と経験、コミュニケーション能力を持った税理士であるならば、AIに駆逐されることはなさそうです。日々研鑽あるのみ、ですね。

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税理士 高山 弥生

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