2019/06/13 15:20
10月に予定されている消費税率引き上げと軽減税率導入ですが、これと同時に2023年・令和5年からはいわゆるインボイス制度が導入されます。これによって、インボイスが発行できない消費税の免税事業者が取引から排除されかねない懸念が生じます。前回は、個人タクシーが免税事業者だったケースで具体的な事例を紹介しましたが、こうした事例は仕事につきものの交際・接待の現場でも起こり得ます。
インボイスとは 事業者の登録番号・取引内容・取引金額など一定の事項を記載した領収書等のことです。 課税事業者のうち登録を受けた事業者のみ発行ができ、免税事業者は発行できません。 |
税務で言うところの交際費(正確には交際費等)は個人であれば全額必要経費とされるのに対して、企業の場合は資本金などの額に応じて一定額しか損金に算入することが認められていません。この一定額を超えた分は、企業経理の上では経費ではあるものの、法人税の計算の上では交際費(経費)の支出はなかったものとされ課税の対象となってしまいます。
交際費そのものが課税の対象となるので、法人税の実効税率を30%とすると、5万円の交際費を支出すると、結果的に5万円プラス法人税15,000円が会社から出て行ってしまうことになります。
経費削減が強く求められる立場の経理課としては、経費が増える上に税金まで上乗せされるのではたまったものではありません。営業などの現場に対して何度も何度も交際費の節約を求めるのも無理からぬところでしょう。
しかし、こうした状況に平成18年の税制改正で大きな変化が起きました。それは、同年の改正で、法人の支出する交際費のうち一人当たり「5,000円以下の飲食費」は税法上の交際費等に含めない、簡単に言えば「5,000円以下の飲食費は税金がかからない」無税扱いとする旨の改正が行われたからです。
とりわけ、資本金5,000万円超の法人は交際費の全額が損金不算入とされていただけに、この改正は大手法人にも強いインパクトを与えたのは記憶に新しいところです。
ただし、接待に使う飲食費の額が1人5,000円を超えてしまってはこの改正も意味がありません。とある企業の営業マンであるあなたはお得意さんの接待用に1人5,000円で済むお店を探し回っています。その中には、町の比較的小さな飲食店なども含まれていたでしょう。
そのお店は食べ○グの評価も3.67点と高評価。味の割に値段もお手頃。おかみさんもとても感じが良く、昔ながらの良い雰囲気の個人経営の居酒屋。あなたはこの店を見つけた時歓喜したことでしょう。
「この店は使える...!」と。
さて、そんな素敵なお店での接待は滞りなく進み、お得意さんも上機嫌。おかげで商談もうまくまとまりそうであなたの気分も上々です。颯爽と領収書をもって経理に赴いたあなたと経理部員のやり取りを見てみましょう。
あなた 「これお願いします。今回もきちんと5,000円以下で済ませましたよ」
経理部員「確かに4人で1万8,000円なので1人5,000円以下ですね。ところで領収書に税額記載がありませんけど。このお店って消費税は免税なんですか?」
あなた 「おかみさん一人でやっているカウンターだけの小さな店ですからね。その代わり、相手の会社の人との話もしやすいんですよ。消費税がない分生ビールの一杯分くらいは得しますしね。経理としても言うことないでしょ」
経理部員「消費税が生ビール一杯分。うまいこと言いますね。でもね、もし消費税があれば、会社としてはその分だけ全体として支払う消費税額が少なくなるんですけどね」
あなた 「どういうことですか?」
経理部員「このお店みたいな免税事業者との取引では仕入税額控除ができなくなったことはこの前の個人タクシーの件でお話しましたよね?」
あなた 「そうでしたっけ」
経理部員「インボイスの発行できない免税事業者に18,000円(うち消費税0円)支払う場合と、インボイスの発行できる課税事業者に18,000円(うち消費税1,637円)支払う場合では後者のほうが会社としては助かるんですよ。あなたがお店に支払う金額は同じでもね」
あなた 「そうなんですか。単純に1人5,000円以内に収めればよいものだとばかり思っていました。消費税が絡んでくると意外にややこしいんですね」
経理部員「法人税は赤字なら払わなくて済みますけど、消費税は会社の赤字、黒字には関係ありませんからね」
あなた 「でもだからと言ってあの店を使うなってことにはならないんでしょう?取引先の担当者もあの店相当気に入ってるんですよ」
経理部員「繰り返しになりますが経理の立場としては税込のお店が助かりますね」
あなた 「...」
交際費の額が1人5,000円以下の少額であっても参加人数が多かったり、接待の回数が多くなったりすれば仕入税額控除のあるなしが経理の立場から問題視されることは容易に察しがつきます。
また、いささかケースは異なるものの、建設現場などで近在の酒屋から酒や乾きものなどを買い込んで下請け業者などとの「懇親会」を行う場合なども、インボイスを受け取れないことが少なからず発生するかもしれません。町から離れた工事現場などではこうした事態は往々にして起こりえますが、仕事の性質上「懇親会」そのものをやめろとも言えないでしょう。
こうしたケースでは、仕入税額控除あるなしの問題より、むしろ、経理処理の場面での正確な伝票チェックなどの手間の問題のほうが大きくなるだろうとの見方もあります。経理としては現場との連絡を密にしておくなどの対策をとる必要も出てくることでしょう。
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