ヤンマーマルシェ株式会社 取締役 杉本大さんに聞く 「食」を通して幸せの循環を生み出す取り組み【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2023年6月号に掲載されました。

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 Z世代(1996~2012年頃に生まれた世代)と言われる若者の多くは、SDGsへの関心が高く、就職や転職の際には、その会社がどれくらい社会や地域、環境に対して貢献しているかを重視するとされています。
 ヤンマーホールディングス株式会社といえば、耕運機に代表される小型ディーゼルエンジンを開発した会社として広く知られ、稲作の機械化によって作業効率を上げることで、農村を豊かにする一助となってきました。昨今では産業機械の提供のみならず新たな食領域でのサービスを開始するなど、社会課題の解決にも取り組んでいます。今年1月には人と未来を育む複合施設「YANMAR TOKYO」をオープンするなど、創業以来食の分野に深く携わってきたヤンマーならではの今の時代への向き合い方について、ヤンマーマルシェ株式会社の取締役・杉本大さんにお話をお聞きしました。

──2021年7月、食の領域事業を主軸にしたヤンマーマルシェ株式会社をスタートさせました。どのような経緯でできた会社なのでしょうか?
杉本(敬称略 以下同):1912年創業のヤンマーは、「農家の過酷な労働負担を機械の力で軽減したい」という想いから、1933年に世界で初めてディーゼルエンジンの小型実用化に成功した産業機械メーカーです。産業用エンジンの製造・販売を軸に、アグリ、建機、マリン、エネルギーシステムなどの事業を多岐にわたって展開してきました。創業以来、変わらないのは、生産の分野に関わるお客様の課題を解決することを目標にしている点です。
 これまでのヤンマーの長い歴史の中で、食料生産という分野において、様々な取り組みをしてきました。そして近年は食のバリューチェーンにおける様々なソリューションを提案してきました。グループ内に散らばっていたそれらを統合する形で、 2021年にヤンマーマルシェ株式会社がスタートする運びとなりました。
 私はヤンマー株式会社に入社してすぐにアグリ部門に配属され、全国の生産者の方々と交流してきました。そのようなふれあいの中で、農家さんの「新たに販売先を見つけたい」「自分が栽培したものがどう使われ、どう食べられているのか知りたい」という声に応えたい、「ヤンマーがお米を買って、売るまで一貫してやってほしい」という声にも応えたいと思うようになりました。このように、生産者のモチベーションが高まり、また生産物を手にした人が幸せになれるような、「美味しい」を軸に幸せの循環ができたらいいなと思っていました。これまで培ってきたアグリ部門での知識や農家さんとの交流から得たものを活かしつつ、ヤンマーマルシェ株式会社では、食材を介して生産者と生活者がつながる場を創出していきたいと考えております。

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(写真:お話しいただいた杉本大さん。)

生産者や社会が抱える問題を解決する

──具体的にどんなことを行う会社なのでしょうか?
 主に、生産者さんと、食品メーカー・商社などの流通業者をつなぐB to B事業を行っており、両者のwin‐winの関係を目指していることが特徴です。例えば、契約栽培により食材を提供してほしいと思っている食品メーカー・商社や流通業者があっても、求める品種・量・品質に応じてくれる優良生産者を見つけるのは容易ではありません。そこで、スムーズなお取引ができるように私達が間に入るようなこともしています。私達は、よく「生産者と需要者の通訳になる」という言葉で表現していますが、これまで培ってきたヤンマーの姿勢、農家さんとの深いところでの交流が、ヤンマーマルシェ独自の手法となって双方の課題を解決することができます。
 実績としては、お米の契約栽培を全国で展開しており、契約農家数は約200軒、最長6年契約で行っています。お米の生産者には、播種前に価格条件を提示し、規格内の作物は全量買取するので、安定収入となり、生産者の持続可能な農業経営のサポートとなります。一方、食品メーカー・商社は、安定的な食材の調達が可能になります。このような商いを可能にしているのは、我々が長きにわたり、生産者の皆さんとの良好な関係を築かせていただいたからこそだと自負しています。また、お米以外にも、大手メーカーとトマトの契約栽培、鹿児島県での養殖カンパチの販路開拓などを行っています。
 広く食に携わる企業として、これからも一次産業を元気に、そして持続可能にしていき、一緒に幸せの循環を生み出していけるように努めます。

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(写真:YANMAR TOKYOに展示されている、ヤンマーの象徴であるトラクター。その頭上には稲藁でできた会社のロゴマークが飾られている。)

YANMAR TOKYOから
食文化を発信する

──東京駅直結のヤンマーホールディングス株式会社のビル「YANMAR TOKYO」が2023年1月にオープンしました。商業施設でもあるこのビルですが、コンセプトなどはありますか?
 「人と未来を育む施設」というのをビル全体のコンセプトに掲げており、商業施設においては「お米の新たな可能性を咲かせる」をテーマに店舗を運営しています。年々、お米の消費量は減っています。加えて、お米の価格も下落傾向であり、このままでは、水稲の生産を持続することが難しくなります。農業の持続性に関しては、お米だけの問題ではなく、野菜や果樹、酪農、畜産においても同様のことが言えます。一次産業が元気を取り戻していくために、ヤンマーは何か行動を起こしたいと考えました。
 YANMAR TOKYOでは、ビルのメイン玄関に、お米に関するギャラリー「ヤンマー米ギャラリー」を設けています。デジタル技術を活用した体験型コンテンツで、お米作りの歴史と今を学び、サステナブルな「お米」と「農業」の未来について考えるきっかけを提供しています。デザインには稲藁を取り入れ、茅葺きを使用した美しい空間を演出しています。
 その他、地下1階から地上2階の全3フロアにわたりヤンマー直営のレストラン、ショップなど計6店舗を展開しています。
 地下1階には、ヤンマーマルシェ直営のお弁当屋があります。YANMAR TOKYOは東京駅ならびに東京ミッドタウン八重洲のバスターミナルへ直結しているので、多くのお客様が各地へ移動する際にご利用いただいています。お米や海苔など素材にこだわり、特別栽培米のコシヒカリを羽釜で丁寧に炊き上げ、海苔は三河湾産の初摘みを使用しています。2階のイタリアンレストランASTERISCOは、"お米と楽しむ"イタリアンレストランで、米粉パスタ、リゾット、米粉のニョッキなども味わえます。こちらもヤンマーマルシェ直営で、食材の魅力や生産者について、お客様がスタッフから説明を受けながら楽しくメニューを選べる対話型サービスが特徴です。
 なぜ直営にこだわるのかというと、レストランをご利用いただいたお客様の声を生産者にフィードバックすることができるからです。生活者の反応、そこから生まれるお米の新しい使い方など、生産者の想いと生活者をつなぐ場、またはお米の可能性を探る場としてレストランを位置づけています。一般的なレストランとは異なり、どちらかというと生産者側の立場に寄り添うスタイルで、適正価格で食材を仕入れてシェフの手で付加価値を高めていくことを目指しています。
 他にも、ANA X株式会社が企画・運営する、日本全国の名産品を期間ごとに特集し地域の魅力と出会えるお店「TOCHI-DOCHI」(トチ‐ドチ)、各地のお米をワインボトルに入れて提供する店舗など、楽しみながらお米や食の魅力を体感できる店舗を揃えています。
 東京駅の目の前という便利な立地に自社ビルがあるのは、創業者の「地方にいらっしゃる生産者さんが迷わず来られるように」という想いを受け継いでいるからです。生産農家の方が、自分の食材が使われているレストランを誇りに思い、友人や家族と連れ立って訪れてくれる、そんな場所でありたいと願っています。

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(写真:YANMAR TOKYOには体験型の「ヤンマー米ギャラリー」がある。サステナブルな「お米」と「農業」の未来について考えるきっかけを提供している。)

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(写真:日本全国の名産品を期間ごとに特集し、地域の魅力と出会えるお店「TOCHI-DOCHI」。)

今の時代だからこその価値観共有の必要性

──SDGsが叫ばれる時代において、ヤンマーグループが描く未来図とは?
 ヤンマーは、100年前から食料生産とエネルギー変換の分野でお客様の課題を解決するという思想を持ってきました。次の100年を見据えて、食の分野でも挑戦したいと思っています。つまり、美味しくて、安心・安全な食品を、ワクワクするような体験とともに提供することです。
 ヤンマーは、"A SUSTAINABLE FUTURE―テクノロジーで、新しい豊かさへ。―"をブランドステートメントに掲げ、持続可能な社会の実現に貢献していきます。そのため、4つの「FUTURE VISION」(「省エネルギーな暮らしを実現する社会。」「安心して仕事・生活ができる社会。」「食の恵みを安心して享受できる社会。」「ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会。」)を実現していきます。
 ヤンマーマルシェ株式会社は、この中の「食の恵みを安心して享受できる社会。」「ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会。」の部分を担っており、これらの実現によって、「A SUSTAINABLE FUTURE」を創り出すことを会社のパーパスとしています。その基盤にあるのはヤンマーの独自の価値観である、「HANASAKA」です。「HANASAKA」は、人の可能性を信じ、そのチャレンジを後押しして、未来を育むという我々が大切にしている想いです。この考え方があるからこそ、挑戦を恐れず、お客様や社員が「ワクワク」できる様々な事業に取り組むことができ、イノベーションを生んでいくのだと思います。
 ヤンマーマルシェ株式会社としては、日本の農業・漁業を支え、未来の農業・漁業を考えてきたヤンマーならではの価値観である「HANASAKA」をベースに、環境負荷低減に向けた取り組みや、魅力ある食文化の創造、次世代の育成に向けた発信などを続けていきます。

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(写真(上下):YANMAR TOKYO 2階にある"お米と楽しむ"イタリアンレストラン「ASTERISCO」。)

ヤンマーマルシェ株式会社
本社所在地:兵庫県尼崎市潮江1丁目16番1号 アミング潮江ウエスト二番館3階
代表取締役社長:山岡照幸
事業内容:食関連事業、住宅設備機器事業、宣伝物品事業
HP:https://www.yanmarmarche.com/

(文/平井明日菜 写真/上垣喜寛 ヤンマーマルシェ株式会社提供)


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