挑戦し続ける企業パタゴニアに聞く 地球というフィールドを受け継ぎ 将来の世代に手渡すビジネス【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2021年7月号に掲載されました。

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photo:Donnie Hedden ©Patagonia, Inc.

 アウトドアギア・ウェアの製造で知られるパタゴニアは、1996年に100%オーガニックコットンのみの使用を始めるなど、環境に極力負荷をかけない製品づくりや、修繕しウェアを長く使うためのキャンペーンやリサイクル素材の採用など、ビジネスと環境保護の両輪でアパレル業界を牽引してきた企業です。2020年12月には、気候のための行動を学ぶ若者へ向けた「クライメート・アクティビズム・スクール」を開講しました。この新しい試みについて、パタゴニア日本支社 環境社会部 アクティビズム・コーディネーターの中西悦子さんにお話を聞きました。

──「クライメート・アクティビズム・スクール」とはどんなものですか?

 この度のパンデミックにより、私たちは多くの行動を制約されました。経済活動やモノや人の移動が停滞したことによって二酸化炭素の排出量が減ったといわれましたが、気候変動を引き起こすひとつの原因である地球温暖化への気温の上昇を抑えることへの影響は、微々たるものであるとも報告されました。これまでの経済や社会システムそのものを根本から見直すときにきています。
 そこで、気候変動をはじめ環境や地域というテーマに関心を持つ若者が、自分で考えて具体的に行動できるように、と始まったのがクライメート・アクティビズム・スクールです。無料で、15歳~ 24歳の若い世代を対象としています。このスクールは、パタゴニアの10代20代スタッフも、社会の変化の担い手として行動するために、一緒に参加しました。
 全国から予想をはるかに上回る500名の応募があり、最終的に社員を含めて146名が参加しました。参加動機から見えてきたのは、日常生活の中で現在の社会や経済の状況に何らかの違和感を感じているが、「意識高い系」と友人にカテゴライズされるのが不安で、行動するまでには至っていないけれど、問題を解決する側になりたいと考えている若者が多くいるということでした。その他、背景には、スキーやサーフィンなどのアウトドアが好きな親世代や、普段から環境問題に関心を寄せている学校の先生の存在など、身近な人の影響があったようです。
 プログラムは、2020年12月から始まり、初回は、オンラインによる座学と対話を開催し、気候変動や生態系の喪失をはじめとする環境問題が、これまでの人間の活動、経済や社会システムによって生まれていることをあらためて学びました。続く3月に行われたフィールドワークでは、3つのテーマごとに50人ずつのグループに分け、それぞれ学びを深めました。
【1】ゼロカーボン・脱炭素社会にむけて
【2】若者と政治(食品ロス/エネルギー/森林と林業)
【3】市民エネルギーと地域社会
 この3つのテーマについて実際に活動しているゲストを呼んで見識を深めました。担い手たちをつなぎ、これらのステークホルダーと協働したり、参考にして自分の地域で行動する方法を模索してもらいたいという狙いがあります。

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(写真:インタビューに答えてくださった中西さん。 Photo:Junichi Sato)

──利益を追求する企業であるにもかかわらず、直接的な儲けにならないようなスクールの開催を試みたのはなぜですか?

 パタゴニアの前身は、山を登るクライミングギアの製造会社です。1970年代に鍛冶屋をしていた頃から、環境への配慮を続けています。企業ミッションは、「私たちは、故郷である地球を救うためにビジネスを営む」です。健全な地球がなければ、ビジネスも暮らしもままなりませんし、ビジネスと相反すると思われがちな環境保全ですが、この先、目を向けないことは企業のリスクにもなりえます。ESG投資として金融の世界の変化も起きてきていますし、若い世代も含めて企業の環境や社会の取り組みへの関心は高まっていて、そうした企業の製品を選ぼうとしていたり、少しでも何か行動できることはないかと考えています。差し迫った気候危機に対しては、今、市民や先進的な企業や自治体が国の制度・政策に働きかけたりしています。こうした変化の速度をさらに上げていけるように、スクールを開催しています。
 私たちは、最高の製品をつくるアウトドア企業として私たちの遊びのフィールドである海・山・川、環境や社会に責任を持ち、環境に与える悪影響を最小限に抑え、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らしてきました。アウトドアスポーツの衣料品を製造販売することによる悪影響を最小限に抑えるためにはサプライチェーン全体の影響を知る必要があります。
 1988年にパタゴニアのボストン・ストアがオープンした際、スタッフが製品を棚に並べた直後に頭痛を訴えはじめました。その原因は、コットン衣類に含まれる、しわや縮みを防ぐ化学薬品で、放出されるホルムアルデヒドのガスと不十分な換気にあると判断しました。これは、どうすれば責任あるやり方で衣料品を作れるのか全くわかっていないことに気づいた瞬間でした。その数年後に私たちがよく使用する4種類の繊維について、その環境負荷の調査を実施しました。この調査により、天然繊維のコットンがどれほどひどい状況なのかが確認されました。
 米国の農薬使用量の10%が、農地全体の1%にすぎないコットン栽培に使われていました。化学肥料、土壌調整剤、枯葉剤、その他の化学物質が、土や水、空気を汚染し、数多くの生物に対して多大な害を及ぼしていることがわかったのです。創業者イヴォン・シュイナードは全社にパタゴニアのスポーツウェアに使うコットンを全てオーガニックコットンに移行せよという指示を出しました。全社員がそれに同意するための方法として、1990年半ばにコットン畑のツアーを実施。コットン畑の上空を、枯葉剤を噴射しながら飛ぶ飛行機を見た当時の社員たちは、移行を決断しました。オーガニックコットンの栽培は農家の健康、健全な生態系、土壌の質を向上させると同時に、慣行農法に比べてカーボンフットプリント(CO2e)を45%減少させ、水を87%削減することができたのです。
 現在、アパレル産業の二酸化炭素の排出量は増加の一途をたどっています。私たちも、糸の製造・織物・防水処理・縫製・輸送や梱包資材での衣類の配送など、あらゆる段階で関与しています。将来の地球を住みやすい環境に保つためには、私たちは慣習を変えなければいけません。すでに所有しているものを修理や再利用してより長く使うことで消費を抑えることができます。衣類の寿命を9か月間伸ばすことにより、炭素の排出量、水の使用量を減らし、廃棄物のフットプリントを20%~30%も削減できると言われています。そのため、メーカーとして、高い耐久性・修理可能・不必要な悪影響をもたらさないなど、最高の製品づくりを続けると同時に、製品を修理して長く使用してもらうため、修理やリサイクル方法の情報提供をしています。この「Worn Wear」プログラムでは、衣類に穴が開いたときのセルフリペアの方法の案内や、ジッパーの交換などリペア部門での実際の修理方法を紹介しています。リペアトラックを走らせてミシンによる簡単な修理や、セルフリペアやお手入れ方法を案内するツアーも実施。アウトドア・ウェアは、無謀な旅、過酷なトレイルなど、たくさんの冒険を共にしていくことで、人生の相棒のような、着るもの以上の価値が生まれます。またもしも、今持っているウェアがお子様用でしたら、「お下がり」として他の持ち主へ引き継いでもらえると、物を大事にするという考え方も一緒に引き継いでもらえます。

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(高校生をメインとするスクールの参加生)

──環境や持続可能性について考えるとき、企業にできることは何でしょうか?

 昨年は、日本政府が「2050年カーボンニュートラルを目指す」と目標を示しました。そして今年に入り2030年度における温室効果ガス排出量を13年度比で46%削減することを発表しています。脱炭素化の社会へ大転換が求められる状況ですが、まずは事業で使用する電力の再生可能エネルギーへの切替や投資が急がれます。
 また、パタゴニアでは、1985年から自然環境の保護・回復のため、売上の1%を米国内外のそれぞれの地域で活躍する「草の根環境保護団体」に寄付してきました。草の根環境保護団体に援助する理由は、小規模であったり、活動範囲が局地的過ぎるという理由から大きな基金には支援を受けられないグループがありますが、地域の貴重な自然の変化に気づき、その問題の根本に働きかけ、真の問題解決ができる存在であると信じています。これまでに、総額1億4,000万ドル以上の寄付を行ってきました。
 2002年パタゴニア社の創設者イヴォン・シュイナードと、ブルー・リボン・フライズ社のオーナーであるクレイグ・マシューズは、「1% for the Planet」という自然環境保護に貢献するビジネスの奨励を目的とする非営利団体を設立しました。加盟企業は、自然環境保護の必要性を理解しています。年間売上の1%を寄付することを誓約し、責任ある企業として行動することは、環境に対する真剣な取り組みを高く評価する良心的な消費者からの認識、信頼を得ることにもつながります。

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(写真:パタゴニア東京・渋谷ストアの外観)

パタゴニア・インターナショナル・インク日本支社
Patagonia International Inc., Japan Branch
〒244-0805 神奈川県横浜市戸塚区川上町91-1 BELISTAタワー東戸塚5階
https://www.patagonia.jp/home

(文/平井明日菜 写真/パタゴニア日本支社提供)


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