サンネット株式会社 代表取締役社長 市川聡さんに聞く 多様な働き方の実現 ワーケーション導入で差別化【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2023年7月号に掲載されました。

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 仕事(Work)と休暇(Vacation)を組み合わせた言葉「ワーケーション」。非日常の環境や空間にいながら仕事をするという新しい働き方です。国内・国外など場所に縛られず働ける、魅力的な働き方なのではないでしょうか。ただ、ワーケーションという働き方は実際にはまだあまり浸透していないようです。いち早くワーケーションに取り組んだサンネット株式会社の市川社長に話を聞きました。

 2021年11月に観光庁が企業向けに実施した調査によると、ワーケーションの導入率は5.3%(前年度3.3%)で、導入を検討している企業は12.7%でした(下図参照)。
 ワーケーションを導入している企業は増えているとはいえ、まだ一部に限られています。その理由として、約6割の企業が「業種としてワーケーションが向いていない」と回答しています。次いで、「『ワーク』と『休暇』の区別が難しい」「ワーケーションの効果を感じない」「テレワークですら導入していないためワーケーションまで検討できない」が続いています。
 1969年創業のサンネット株式会社は、情報システムの設計・構築をする会社として誕生しました。長年培ってきた情報システムのノウハウを活かし、情報システムの分析・設計・開発・保守だけではなく、現在はクラウドサービスまでビジネスエリアを拡大しています。

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 新型コロナウイルス感染症の拡大以前は、サンネットの約7割の社員がお客様の会社に常駐し、システム開発または運用・保守などの業務を請け負うという働き方でした。テレワークを推進していたものの、対象者は、産休・育休明けの女性が中心でした。それがコロナ禍になって一変しました。サンネットのお客様は大企業が多く、そのほとんどがテレワークを導入するようになりました。

ワーケーションのきっかけは、コロナ禍

 「コロナ禍で、お客様のところに常駐していた弊社の社員も、同様にテレワーク主体へシフトしました。リスクヘッジの一環として、弊社の新宿オフィス(東京本社)も一時的に閉鎖しました。しかし、このようなピンチの状況を逆手に取って、働き方改革を進めるチャンスと捉えることにしました」と市川社長。100%の社員を自宅でのテレワークに切り替える一方で、市川社長が気がかりだったのは、社員のメンタルヘルスやモチベーションです。
 「社員にはそれぞれ厳重な守秘義務があり、情報漏えいの危険からセキュリティが強固な環境でないと働けません。つまり、気分転換したくても、Free Wi-Fiに接続するようなオープンカフェや公共の場で仕事をすることができないのです。しかし、セキュリティさえ担保したオフィスを作ってしまえばどこでも働くことができる、と発想しました」
 そう思っていた市川社長のところに、北海道のとある自治体から「ワーケーションをしませんか?」という内容のダイレクトメールが郵送で届きました。同封のパンフレットには、満天の星空とバンガローの写真がありました。
 「びっくりしましたね。自然に囲まれたこんなすてきな場所で仕事ができるの?という驚きです。それまでワーケーションという言葉を知りませんでした。旅行先で働きながら、観光しグルメを楽しむことでリフレッシュができ、何より新しいアイデアが浮かんでくる可能性もあります。心身ともにリフレッシュをすることで、仕事の効率が上がることが期待できます」

ワーケーション導入に向けて

 すっかりワーケーションに魅了された市川社長は、2020年の秋からワーケーションの導入について本格的に考えるようになりました。せっかくワクワクすることを始めるならなるべく遠い場所が良いと、直感的に北海道か九州・沖縄にしようと思ったと言います。そして、この先何回も訪れることになるはずなので、四季の変化が楽しめる北海道に候補を絞りました。最終的に、東京から飛行機が1日に何便も出ていて、新千歳空港から車で30分という立地の長沼町に決めました。札幌から1時間程度であり、中長期的には札幌で現地ビジネスを始めることも視野に入れての場所選びでした。
 当初は、既存の施設やアパートを借りてワーケーションを行うタイプをイメージしていましたが、社員の意見を聞いてみたところ「カフェのようなオシャレな空間で仕事をしたい」、「家族やペットと一緒に行き、泊まれるようにしたい」など闊達な意見が出ました。加えて、ちょうど良いサイズの土地が町のメインストリートに売りに出たタイミングであったことから、イチからワーケーションオフィスと、アパート棟の合計2棟を建設する運びとなりました。施工は地元の工務店に決めました。
 「やはり寒冷地の知恵が詰まっている施工方法なので、断熱がしっかりしています。そもそも土台から作り方が違うと思いましたね。内装には地域の特色を生かした「札幌軟石」「江別のれんが」を取り入れてもらうことにしました。設立にあたって、長沼に住む町民の方たちに向けて、会社の自己紹介を兼ねた説明会を開催しました。 IT会社という説明だけでは、われわれがどんな会社で何をしているのかわかりにくいところがあり、不安を感じる方がいます。そういった意味で、お互いを知るきっかけになればと思いました。社員と長沼の人との交流から、新たな地域課題解決に向けての動きが出る可能性も十分あります」

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(写真:ワーケーションオフィスの外観)

 こうして、2022年12月、「長沼ワーケーションオフィス」を開設しました。開所式には、施工してくれた大工さんをはじめ、地元の方々約30名を招き、神奈川県小田原市在住の画家である中津川浩章さんのライブペイントを開催しました。多くの人に楽しんでもらえるように工夫を凝らしつつ、本社がある小田原市の社員や関係者、東京本社の社員、長沼町の人たちという3つの地域に縁がある人たちが、集い、繋がる場所になるように願いが込められています。
 ただ、新たな事業に取り組む場合、資金がある程度必要です。ワーケーションは国が推進していることもあり、補助金制度が活用できます。自治体によって対象となる経費や金額が異なりますが、ワーケーション実施に必要な費用を自治体が一部負担してくれる制度で、宿泊費や交通費だけでなく、レンタカー代、水道光熱費も対象となる場合もあります。補助金の利用によって、ワーケーション導入のハードルが下がると考える企業も多いでしょう。この度はサンネットでは補助金制度を活用しませんでしたが、ワーケーションオフィスに隣接したアパート棟の一部を、一般の人が賃貸物件として借りられるようにするなど工夫して、収入を得られる仕組みを作りました。また、長沼町が過疎地域とされているため、「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」に基づいた固定資産税の課税免除申請を行うなどして、負担軽減に努めました。

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(写真:ワーケーションオフィスの開所式の様子。これからライブペイントを行う画家の中津川さん(右)と市川社長(左)。)

他社との差別化にもつながったワーケーション

 コロナ禍で社員同士のコミュニケーションが取りにくくなり、精神的に不調を抱えて悩む人も出てきました。サンネットの社員も同様でした。そういう点をワーケーションで補うことができたと、市川社長は言います。
 「社員の声としては『また行きたい』が一番多いですね。利用の延長をしたいという社員もおり、そのような措置を認めました。中には、『戻ったら、いつものオフィスが昭和の雰囲気に思えた。その日の気分で音楽を流したり、パソコンを開く場所を変えられるので、北海道のオフィスの方が仕事に対するモチベーションが上がる』と言う社員もいて、普段のオフィス環境の改善をしないといけないな......と気付かされました。
 もともと自己管理ができる社員ばかりですので、仕事のオン・オフについての心配はあまりしていませんでした。社員の就業意欲が高まり、他の部署との協働も期待でき、新しい仕事を生み出す場になっています。
 業界として、システムエンジニアという職種は離職率が高いと言われています。もともと私たちの会社ではかなり低い方ですが、ワーケーションによって、より社員の満足度が上がり、離職率が抑えられたらいいですね。新卒採用では、ワーケーションをしていることで学生側から一定の評価が得られています」
 世間では1週間程度が一般的なのに対して、サンネットでは基本的に1カ月単位でワーケーションを行っています。定員5人で、部署もバラバラの希望を出した社員を長沼ワーケーションオフィスへ送り出すイメージです。宿泊費や交通費、水道光熱費などは全て会社持ちで、家族連れでの利用も進んでいるそうです。

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(写真:その日の気分に合わせて好きな椅子、場所で仕事に取り組める。オシャレな雰囲気で仕事ができると「モチベーションが上がる」という社員の声もある。)

可能にしたのはチャレンジを恐れない社風

 ワーケーション導入については、市川社長は「就業規則を変えれば導入は簡単です」と言いますが、有給休暇を半日や時間単位で取得可能にし、フレックスタイム制度を導入するなど、勤務形態の見直しが必要で、そう簡単にできることではありません。なぜ可能にできたのでしょうか。その理由を詳しく伺うと、ある出来事に行き着きました。
 市川社長が代表取締役に就任したのは2010年です。その後、東日本大震災が起こり、震災前と後とでは、社員の働き方が大きく変わったと言います。「当時、自社内にサーバールームを設けて自社内で全てのサーバーを管理していましたが、震災直後の計画停電がきっかけで、社員の出社や退社の時間に変動が出ました。サーバーを立ち上げたり、シャットダウンするまで1時間を要しますから、計画停電に合わせて朝5時に出社する社員や、逆にお昼から出社の者がいたりして、就業時間が変則的になりました。それがきっかけとなり、就業規則の変更を行い、また、当時出始めたばかりのクラウド技術を導入し、既存システムを一新しました。そして2011年9月にクラウドシステムを導入した東京本社を新設し、社内のハイブリッドクラウドを実現しました」
 一人ひとりの社員に真摯に向き合いつつ、時代の変化に柔軟に対応して経験を積んできたサンネット。社会に対し、常に会社の存在価値を問うてきたからこそ、いち早くワーケーションのような新事業場を展開することができたのでしょう。

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(写真:週末はみんなでスキーへ。)

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(写真:野球観戦で交流が広がる。)

サンネット株式会社
東京本社 〒163−0703 東京都新宿区西新宿2−7−1 小田急第一生命ビル3階
TEL:03−6844−3600(代) FAX:050−3737−8715
本社 〒250−0011 神奈川県小田原市栄町1−6−1 小田原第一生命ビル3階
TEL:0465−22−9707(代) FAX:0465−22−9714

(文/平井明日菜 写真/上垣喜寛 サンネット株式会社提供)


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