2019/08/05 9:30
このコラムは『マネジメント倶楽部』2019年8月号に掲載されました。
音楽シーンの「革命児」
インターネットの登場は、音楽シーンを含め、世界中のあらゆる産業を変えました。音楽を聴く手段として当然のモノであった「CD」を買わずとも、インターネットを通じて高音質の音楽が配信されるようになり、CDの売上げは激減。また、近年ではダウンロードではなく、SpotifyやAppleMusicなどのストリーミングサービスが世界的に主流になっています。CDの売上げでやりくりするといった従来の収益構造が機能しなくなりつつある現在、ミュージシャンやレコード会社は変革の時代を迎えていますが、そんな中、「レコード会社と契約しない」「自身の作品を無料で配信する」という、従来の常識を覆す手法で一躍時代の寵児となったのが、今回紹介するチャンス・ザ・ラッパーです。
無料配信で世界を席巻、グラミー賞が規定を変更
1993年4月16日、アメリカ・イリノイ州シカゴに生まれたチャンス・ザ・ラッパー。シカゴは凶悪犯罪が多発する都市としても知られていますが、彼自身は父親があのバラク・オバマの補佐官を務めていたこともあるなど、恵まれた家庭環境で育ちました。マイケル・ジャクソンやソウルミュージック、ジャズを好んで聴いていたという彼は、やがてカニエ・ウェストを聴き大きな影響を受け、ラップを始めます。
高校時代の2011年、学校内でマリファナを所持していたため10日間の停学処分を受けたチャンス・ザ・ラッパーは、その期間に最初のミックステープ『10 Day』を制作し、翌年に無料でネット上でリリースします。この作品で高い評価を得た彼は、2013年に2作目のミックステープ『AcidRap』を発表。前作を上回る評判となり、チャンス・ザ・ラッパーの名は全世界に知れ渡ることになります。そして2016年、3作目となるミックステープ『Coloring Book』を発表。ヒップホップとゴスペルミュージックが融合したこの作品は、全米アルバムチャートで8位を記録し、さらにCDやダウンロード販売を行わないストリーミングのみの作品としては、初めてBillboard200にランクインするという快挙を達成しました。
また、この作品の大ヒットにより、それまでノミネート対象作品を「一般的な流通形態で有料販売され、購入できる作品」と規定していたグラミー賞は規定を変更。ストリーミングのみの作品も対象となり、彼は2017年の第59回グラミー賞にて「最優秀新人賞」「最優秀ラップ・パフォーマンス賞」「最優秀ラップ・アルバム賞」の3部門を受賞。名実共に新世代を代表するミュージシャンとなります。
音楽以外にも様々な活動
作品を無料配信しているため、そこからの直接の儲けはありませんが、コンサートやグッズの売上げ、他のミュージシャンや企業とのコラボレーションなどで収入を得ているというチャンス・ザ・ラッパー。彼は音楽活動以外でも、地元シカゴの公立学校への寄付や、選挙への投票を呼びかける無料ライブからの投票所へのパレードなど、様々な社会活動を行っており、こういった活動がさらに彼のブランド力を高め、ファンの獲得、収益の増加に繋がっています。音楽シーンにおいて新しいビジネススタイルを提示する彼は、まだ26歳。
今後もチャンス・ザ・ラッパーから目が離せません。
文・イラスト 西浦謙助(ドラマーを務める集団行動のアルバム『SUPER MUSIC』発売中!)
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