NPO法人 自伐型(じばつがた)林業推進協会 中嶋 健造さんに聞く これからの山林の生かし方【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2021年8月号に掲載されました。

かつては投資先・富の象徴だった山林が、「まったくの手付かずで、どうしよう」「儲からないばかりか固定資産税ばかりかかって困る」などと、現在は所有に困るという人が多くなっています。そんな悩みを社会貢献に替える林業の方法を、自伐型林業推進協会・代表理事の中嶋健造さんにお聞きしました。

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※自伐型林業とは、限られた森林の永続管理と、その限られた森林から持続的に収入を得ていく林業。森林の経営や管理、施業を山林所有者や地域が自ら行う、自己責任型の林業です。

──「山を持っているがどうしたものか......と悩む人がいる一方で、日本ではアウトドアやキャンプブームで山への関心が高まり、世界的にはSDGs(持続可能な開発目標)への関心が高まるなど、森林や森林資源の有効活用に注目が集まっています。

 最近では、他人に気兼ねなくキャンプをしたいという思いから、山を購入するという個人もいるようです。しかし、山林は管理の仕方によって、周囲に対して良い影響も悪い影響も与えますから、きちんとした管理をしないと土砂崩れを引き起こしますし、山林崩壊、水害にもつながります。そこを十分理解しておかなければなりません。
 同じことは「国産材」についてもいえます。国産材であれば、どんな木でも良いものと思っていませんか。本当に持続可能な手法で育てられているのかどうか、多くの場合、疑わしいものです。というのも、政府は、戦後に植えられたスギやヒノキの人工林が現在、「伐(き)りどき」であるとし、伐採を奨励しています。こうして、「森林整備」といいながら持続不可能なほど大量に伐採し、山を丸裸にしている現状もあります。
 当協会は「自伐型林業」を広める活動をしている団体です。一言でいうと、自伐型林業とは、経済的にも資源的にも持続可能な林業です。小型の機械を使って、自ら山に道を作り、自ら木を伐り、自ら木材を運び出す、自立・自営の林業です。限られた面積の中で手入れをし続けて永続的に収益を上げるため、すべての木を一斉に伐採することはしませんし、山を傷つけるような大規模な間伐も行いません。100年、200年先まで山林から永続的に収益を得ながら、森林を良好に維持し続けるので、「持続的な森林経営」といわれており、林業研修を各地で開いて自伐型林業に取り組む若手を育成しています。
 当団体の会員は約1,400人、山を所有している人もいますが、実際は山を持っていない人が多く、将来的に地方で地域の山を守っていく仕事をしたいので、それに向けて情報が欲しいという理由で会員になるのです。団体を設立したばかりのときは、「何と読むのですか」「何をする団体ですか」と聞かれることが多かったのですが、メディアで取り上げられる機会も増え、さらに国会議員による議員連盟「自伐型林業普及推進議員連盟」ができたこともあり、自伐型林業を展開したいと予算化する自治体も53の市町村にのぼり、森を活用した「地方創生」の具体案として注目が集まっています。フォーラムや勉強会への参加者は過去約6年間で約4万5,000人となり、自伐型林業研修への参加者は6,000人以上で、この中から自伐型林業に着手した人の数は3,000人を超えます。今、都市部から地方へ移住したいという若者が増えていますが、自伐型林業による生業づくりによって、そういった若者を地域に定着させることができます。

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(写真 自伐型林業が目指す奈良県吉野地域の森。樹齢200年を超えるスギが林立する世界有数の人工林)

──持続可能な林業のために、企業はどのような取組みをしていますか。

 例えば、当団体の提携団体の1つである全国展開の居酒屋チェーン「養老乃瀧株式会社」さんは、所有の山を、地元の自伐型林業者を育成するための研修のフィールドとして提供してくれています。
 山林を所有していなくても、自伐型林業の取組に賛同してくれた自治体と企業が連携して自伐型林業を推進したり、企業が自社の技術を提供してくれたりした例もあります(各企業等の取組み例は下表参照)。
 また、この頃は「山で儲けたい」という企業からの問い合わせが増えています。これまでは、山は持っていてもお金にならないから手放したいという考え方がありましたが、太陽光発電、木質バイオマス、キャンプブームなどにより、山林を取得したいという企業からの相談があります。山林資源の有効活用には大いに賛同できますが、相談の中には環境破壊的なビジネスを考えている方もいて、危うさを感じています。特に再生可能エネルギーで注目されている木質バイオマス発電の建設ラッシュの裏で、木材供給の見込みがない中で大きな発電所の建設が先走り、限られた森林資源が取り合いになっている状況を耳にします。そこでは発電用の木材を供給するために、山を丸裸にする「皆伐(かいばつ)」や、「間伐(かんばつ)」と称しながら実際は「主伐(しゅばつ)」をしているような生産量重視型の「伐り過ぎてしまう間伐」が激増しています。さらに国産材では調達が間に合わないので、海外からヤシ殻などを輸入して発電用に使うという「持続可能」や「自給」とは180度真逆の現象まで起こっています。皆伐がどんどん進めば、将来の資源を先取りするだけで持続可能な林業は望めません。

自伐型林業推進協会に係わった各企業等の取組み例
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(写真 丸裸にされた森から崩壊した現場(四国地方 2019年撮影))

──実際に、どのように山を育て、永続的に収益を得ていくのでしょうか。

 当協会の理事に、橋本光治さんという林業家がいます。持続可能な林業経営が評価され、2016年、内閣総理大臣賞と農林水産大臣賞をご夫婦でダブル受賞しました。橋本さんの山には、スギ中心の人工林のほかに、尾根筋にはモミ、ケヤキ、シイ、カシなどが生育し、300種以上の植種があります。広葉樹の落ち葉は腐葉土となり、良い木を育てる栄養豊富で保水力の高い土壌を作り上げています。
 橋本家は徳島県で代々林業を営んでいましたが、木の伐倒や搬出を業者に委託するようになってから、樹齢100〜150年の良質な木が伐られるようになり、山が荒れ始めたそうです。そして祖父が亡くなると、数千万円の相続税を払わなければならなくなりました。その支払いのために、皆伐をするか迷ったそうです。皆伐したら支払いは簡単ですが、山に木がなくなれば、何年もかけて植林や下草刈りという重労働をして山を再生しなければならず、長期的には経営の負担になることがわかっていました。思案の末、税務署にかけあって分納する道を選んだそうです。そして、橋本さんは会社を辞めて、自分で伐採・搬出作業をしながら、弱度な間伐を定期的に繰り返す「持続的な森林経営(多間伐施業)」を行う自伐林業家になりました。間伐は、森の成長量を超えない弱度な間伐量で行い、良い木は残して太らせます。低コストのコストポイントは、最初の間伐の際、雨が降っても壊れずに使い続けられる作業道を敷設すること。これにより、次の間伐時に、再び作業道を敷設する必要がなくなります。こうして、所有山林の質と量を徐々に増やし、収益を上げていくやり方で、子どもを養いながら15年かけて相続税も支払い終えました。
 「皆伐をしなくてよかったです。今、その山は美しい山になっています。現段階ではまだ木材価格が安くても、いずれ少々高くても良い木を欲しい人が出てくるでしょう。その時に、売る木がなかったら経営できませんよね。無理して良い木を伐るよりも、今は残した方がいい」と話しています。
 橋本さんのような専業の自伐林業家になろうと思うと、一人あたり50ha程度、兼業型でも10〜30ha程度の山が必要になります。そこまでの面積の山を持てない若者は「副業型」の自伐型林業者を目指す人が多いです。例えば、アウトドアガイドとの兼業、農業との兼業などです。もうおわかりのように、人にお願いせずに、適正な間伐作業を自分で行って、木を市場に出せば自分の手元にお金が入ります。

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(写真 夏はカヌーインストラクター、冬は自伐型林業を兼業する若者も(高知県四万十市))

──それでも山林を処分したいと考えている人は、どうすべきでしょう?

 不動産会社へ売却を依頼するのではなく、自伐型林業者や近隣の山林所有者へ売却、あるいは地方自治体へ寄付するなどの方法もあります。皆伐して環境に負荷をかけるような業者へ手渡してしまうと、財産を失うだけでなく、土砂崩れなどを引き起こし、近隣の地域にも将来にわたって迷惑をかけてしまいます。
 手放したくはないけれど自分で管理できないというときは、自伐型林業に取り組んでいる人や、我々に相談してみてください。良い木を山に残して、樹齢100年を超える木が生い茂る良い山を作ってくれる人を見つけて、管理をお願いする道があります。日本列島の約67%の面積が森林です。世界に誇れるような森を、みなさんとともに創っていきたいと思います。

特定非営利活動法人 持続可能な環境共生林業を実現する自伐型林業推進協会
(略称)自伐型林業推進協会(じばつがたりんぎょうすいしんきょうかい)

2014年設立。事業内容 (1)自伐型林業推進による農山漁村の再生事業 (2)林業に関する政策提言およびコンサルティング事業(3)林業・農山漁村に関する研究・調査および教育・研修事業(4)自伐型林業者のネットワーク創出事業 ほか
〒105-0003 東京都港区西新橋1-4-12 新第一ビル5F
https://zibatsu.jp/

(文/平井明日菜 写真/自伐型林業推進協会提供)


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