株式会社東京乳母車 店長・横田 晶子さんに聞く 「育児がもっと楽しくなる乳母車」【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2020年9月号に掲載されました。

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気に入ったものが壊れたので修理に出そうとしたら「部品がないので直せません」「修理するより買ったほうが安い」と言われた経験はありませんか。
現代は安くて使い捨てを前提とした道具や服、日用品の存在感が増しています。そんな時代にあって、壊れたら修理し、世代を越えて長く使い続けられる製品作りにこだわる乳母車メーカー店長の横田晶子さんに、お話を聞きました。

―日本に初めて持ち込まれた乳母車は1867年、福沢諭吉が子どもへのお土産として持ち帰ったものだと言われています。当時の人は初めて見る乳母車に驚きを隠せなかったでしょう。今日ではそれとは逆に乳母車というとレトロなイメージがあります。なぜ乳母車を開発しようと思ったのですか。

 私たち夫婦が子育てしていた約40年前も今と同じくすでにベビーカーが主流で、乳母車で子育てしていた私たちは目をひく存在でした。でも、長男を妊娠中、とあるデパートの催事場で目にした乳母車が何とも素敵に見えて、一瞬で心を奪われてしまいました。どうしても乳母車で子育てをしたいと思ったのです。そこで夫と販売店を探し回ってやっと手に入れました。
 最初のうちは乳母車で外出することに少し恥ずかしさもありましたが、乳母車を押していると、道行く人たちが中をのぞき込んで子どもをあやし、話しかけてくれるのでとても幸せな気分になりました。子どもたちも乳母車に乗っているとご機嫌でした。きっと中で座って遊んだり、周りをきょろきょろ眺めたり、眠たくなったら寝ころんでみたりと、自由に動けるからでしょう。
 そんな幸せな育児の思い出があったので、次男が生まれたお祝いにもっとおしゃれで使いやすい乳母車を作ってあげようと、夫が開発に着手しました。夫はもともと発明好きで、その当時は特許事務所に勤務していたこともあり、ほんの軽い気持ちで取り掛かりました。ところが、なかなか思うようなものができず、3年かけて試作に試作を重ね、ようやく製品として出来上がったのが「プスプス」です。

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約40年前、横田さん夫妻が使っていた乳母車

 製品の改良は今でも続けています。外観からでは分かりませんが、100か所以上を改良したはずです。できるだけ、ユーザーと「対話」しながら改良を進めるように努めています。台車の下にセットする荷物トレイの開発のときは、双子育児中のユーザーに「バスケットの中は2人の子どもとその荷物でいっぱいです。せめて靴だけでも置けるようにしてほしい」と言われ、これはまったくおっしゃる通りだと反省。すぐに改良することになりました。つかまり立ちフェンス、レインカバー、お昼寝カーテンなど、現在「オプション品」となっているものもユーザーの要望で生まれたものです。
 こうして発売以来26年にわたり、乳母車を通して育児をより楽しいものにするため、赤ちゃんと家族の関係をよりよいものにするために、乳母車育児の提案を続けています。プスプスの良さは口コミでだんだん知られるようになり、1996年には東京都中小企業優良商品選定第1位、同年には東京発明展奨励賞もいただきました。今では、「赤ちゃんの機嫌がよくなる」「ぐっすり寝てしまう」と使い勝手に定評をいただけるようになりました。

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多くのデザインの中からお好きな幌やタイヤの色などを選べます。

―現代の育児は、「ワンオペ」という言葉に代表されるように、ともすれば母親一人で背負い込むような孤独になりがちな環境にあります。私もプスプスユーザーの一人として、実際に街をプスプス を押して歩いてみると、「かわいいですね」「どこで買ったんですか」とか「昔はみんな乳母車だったのよ」などと笑顔で声をかけていだきました。

 プスプスがきっかけで見知らぬ人とのコミュニケーションの機会が格段に増えたと、みなさんおっしゃいます。また、「プスプスがあると、どんなに忙しくてもおしゃれをして散歩に出かけたくなる」という声も聞こえてきます。ユーザーの中にほろは、日除けとなる幌の周りにレースを施してみたり、かわいらしいぬいぐるみを縫いつけたりと、思い思いにアレンジして、より愛着を持って扱ってくれる方もいます。この乳母車を通じて、多忙な育児に身を置くお母さん、お父さんのお役に立てているのかなと嬉しくなります。
 プスプスの一番の特徴は、使う人=赤ちゃんと考え、赤ちゃんにとって居心地がいいことを第一に考えた設計です。椅子型のベビーカーでは前後方向のどちらかに視界が限られてしまいますが、プスプスなら周りの景色を360度見渡せるので、赤ちゃんは、いつでもお父さんやお母さんの姿が見えて安心できます。赤ちゃんの嬉しそうな表情や好奇心いっぱいのお顔を見逃すこともありません。
 大きな車輪がついていることで、クッション性が高くガタガタ道でも乗り心地がいいようになっています。バスケットの底はフラットでしっかり横になることができ、赤ちゃんがぐっすり眠れます。また、ベビーカーのように身体を固定するベルトがないので、広いバスケットの中で寝返りをうつ、立つ、座るなど、自由に動き回れます。これは好奇心旺盛な赤ちゃんにとってとても楽しいことだと思います。赤ちゃんのご機嫌がいいと、お父さんやお母さんも笑顔になり、育児がもっと楽しくなると思います。この笑顔の連鎖を、もっといろいろな人に届けたいと思います。

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本店では、プスプスを借りて周囲を散歩することができます。

―確かに我が家の子どもはプスプスが大好きで、乗るのを嫌がったことはありません。荷物もたくさん入り、使い勝手がいいです。ただ、軽くて折りたたみ可能な一般的 なベビーカーと比べると、プスプスは大きくて重いですし、値段も9万8,000円(キャンディーシリーズの本体価格)とちょっとお高めです。それらが理由で購入を躊躇される方もいるかもしれません。

 一見、プスプスは大きく見えますが、A型ベビーカーのサイズを基準に設計されています。幅52センチ、高さ97センチ、奥行き107センチと、幅や高さは3輪の海外製の人気のベビーカー・エアバギーとほとんど変わりません。駅の自動改札も折りたたむことなしでそのまま通り抜けられます。バスケットが広いので、寝返りやハイハイもできます。4か月くらいまでなら、2人並んで寝ることもでき、さらに耐荷重30キロということもあり、双子用にプスプスを購入されるお客様も多くいます。購入検討の際に、双子が隣同士に座る形のベビーカーと比較されることも多いのですが、双子用となると幅がプスプスより大きくなるものがほとんどで、そうなると駅改札を通過するのは難しくなってしまいます。
 現在は昔に比べて、ベビーグッズの種類が豊富になりました。それらはあると便利ですが、子どもは成長が早いので使用期間 が短いですし、子どもが生まれたときは何かとお金がかかりますから、プスプスが高価なものに思うのも当然です。しかし、プスプスはベビーベッド、バウンサー、ベビーカーの役割を果たすことができるので、1台で何役にもなると考えると、結果的に省スペースになり、経済的です。なにより車輪がついているので移動が可能で、例えばキッチンにプスプスごと赤ちゃんを移動させてあげれば、料理をしながら側で赤ちゃんを見守るといった使い方ができます。
 赤ちゃんが歩くようになると、持ち運びの大変なA型ベビーカーからB型ベビーカーへの乗り換えを決める方も多いようですが、プスプスは新生児から3歳頃まで使っていただけるため、ベビーカーのA型・B型のように、年齢にあわせて買い替える必要もありません。別売りの「安全フェンス」をバスケットの上に取り付ければ、つかまり立ちすることができてバランス感覚も養われるので、ユーザーさんからは「子どもの歩き始めが早い」と言われます。
 車種によりますが、プスプスは台車とバスケットに簡単に分解することができます。車にも積むことができ、お出かけ先でベビーカーやベビーベッドとして使えるので、実際に使うと便利な点が多いと思います。

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台座は取り外し可能でベビーベッドとしても使えます。

―実は、子どもがプスプスを押して遊んだり、ジャングルジムのようによじ登ったりしてバスケットの部分が折れてしまいました。3歳を過ぎて出番が減ってきたのですが、育児のパートナーであり愛着もあるので、なかなか手放せません。

 使わなくなったプスプスは、リサイクル品用に下取りをしています。しかし、わずかな台数しか戻ってきません。それは、 「思い出が詰まっているので手放したくない」「友達が使わなくなったらほしいと言うので譲った」「プスプスを下取りに出すと言ったら子どもが泣き出してしまった」という理由や、「将来、孫が生まれたら乗せたいので納戸にしまってある」などです。
 プスプス が「親子の思い出の品」になっている場合が多く、手放された方から手紙をもらいました。「楽しい時も、大変な時も、いつでも一緒でした。育児の中で、1番思い入れのあるものでした。卒業するのはとても寂しく、涙が出てきました。(略)乳母車、楽しい思い出をたくさんたくさん、ありがとう。この素敵な乳母車を、これからもたくさんの人に届けてください」という内容でした。
 下取り品は、平均して5~6年間使用され、2~3人のお子さんを育てたケースが多いです。お客様の中には、自分たちが使い終わった後、メンテナンスをしてきょうだいや、友人にも貸し出して、結果的に3家族に使ってもらった例もあるくらいです。手放す場合は、当社が引き取った後、修理を施して新品の敷きマットを敷いてリサイクル品として販売するようにしています。そのときは、台車を分解して洗浄し、傷んだ部品を交換し、車輪を磨き、バスケットを修理し、幌も分解しクリーニングします。こうして、新品に近い状態で次の 赤ちゃんをお迎えできるようにしています。
 もし壊れた場合でも、すべての部品の交換や修理ができるので、修理して使い続けることができます。よくある修理依頼は、バスケットの一部が折れてしまったとか、タイヤがすり減ったなどです。
 最近、こんな嬉しいことがありました。かつてプスプスで双子を育てた方からの修理のご依頼で、お子さんが成人して親になり、また孫のために使いたいのでというご依頼でした。当社を設立して26年、人生の始まりの3年間をこの乳母車と一緒に過ごした赤ちゃんが成人し、今度は親となられて、また育児のお供にと希望してくださったのだと思うと、胸が熱くなりました。
 壊れても修繕し、世代を越えて引き継ぎたいと思えるような製品を、これからも改良を続けながら作り続けていきます。
(文/平井明日菜 写真/株式会社東京乳母車提供)


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横田ご夫妻


株式会社 東京乳母車
本店:〒107-0052 東京都港区赤坂9-1-26 1F
本社:〒182-0016東京都調布市佐須町4-34-6
電話:03-6434-7941 https://babycar.co.jp/


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