2万3,000人が集う企業内大学「Zアカデミア」 ディレクター 石塚勝巳さんに聞く 人材育成は未来への投資【マネジメント倶楽部・今月の深読み!】

このコラムは『マネジメント倶楽部』2021年9月号に掲載されました。

image1.jpeg

少子化・人材不足で悩まされている日本。2055年までに日本の労働人口は4割減るといわれています。不景気になると人材育成への予算がカットされがちですが、多様性のある人材の育成は、コストではなく投資と捉えていかなくてはなりません。2014年から会社の中に「大学」を設置し、社員の学ぶ場を提供することで人材を育成してきたヤフー株式会社の社員で、現在、Zホールディングス株式会社の企業内大学の「Zアカデミア」でディレクターを務める石塚勝巳さんにお話をお聞きました。

──すでに大手企業の中では企業内大学を持っているところが多くあり、中小企業でも企業内大学を採用するところが出てきています。「Zアカデミア」はどのようなプログラムを用意しているのですか?

 私が携わっている「Zアカデミア」は、2020年4月に設立されました。その基盤は、2014年4月設立のヤフー株式会社の企業内大学「Yahoo!アカデミア」です。この度、「Yahoo!アカデミア」は残しつつ、受講対象者をZホールディングスグループに拡大することになり、Zホールディングスグループの従業員の横糸を繋ぎ、グループシナジーを加速させる役割を担うことになりました。グループ会社の従業員同士、ともに未来を創るという意識を共有し、ともに進むべき道を描き、学び合い、教え合う、ベースキャンプのような場所になることを目指しています。
 そのために、年間プログラムを組んでいます。グループのトップリーダーや女性リーダーのための「特化型クラス」と、グループ会社の従業員であれば誰でも参加できる「全グループ会社従業員対象」の2つのプログラムの運営を行っています。

──企業内大学は長期的かつ戦略的であり、学ぶ目的や役割が通常の社員研修とは異なるのですね。

 一般的に、研修やセミナーは、講師が受講者に教える形式で、知識やスキルを得るために実施されるものだと思います。また、新人教育は用意されているのですが、その後の教育の機会が用意されているところは多くはないと感じています。社員が学び続けることは重要だと理解はしているが、会社としてはそこまで手をかけづらいという声もよく聞きます。
 「Zアカデミア」の「特化型クラス」は、「役職」や「女性」などの切り口で共通点を持つ者が集まる場です。例えば、グループのトップリーダーが集まるクラスは、リーダーたちが創っていく未来についてのディスカッションや自身のリーダーシップの源泉をクリアにする対話などを行いながら、トップリーダー同士の横糸を繋げます。こうして、関係性の構築やグループシナジーの加速の機会の場となるように工夫してプログラムを組んでいます。また、ミドルマネジメントクラスは、マネジメントのベースを鍛えていく場となるようにプログラムを組んでいます。女性リーダークラスでは、マネジメントを行っている女性同士が「安心・安全な場」で自分らしい未来を考える機会の場となるよう心がけています。
 共通点のある者同士を集めることにより、上司や部下には相談できず、自身だけで悩んでいたことが同じ境遇の相手になら話すことができるなど、仲間意識が高まります。
 もう1つの全グループ会社従業員対象のプログラムは「University(ユニバーシティ)」と呼んでいます。こちらは、様々なプログラムの中から参加したいものに参加する形式で、知識やスキルだけではなく、マインドや心身のコンディショニングなど多様なプログラムがあります。例えば、ロジカルシンキングやマインドフルネス、自身の振り返りなど様々です。「特化型クラス」も「University」もプログラムを通じて、学びを得るだけではなく、自分とは違う考えや価値観に触れることで、自分の中に新しい気づきが生まれるようプログラムを実施しています。

20210916.png
(図:Zアカデミアのイメージ図 石塚氏提供)

 そして、Zアカデミアでは学び続ける機会の創造以外にも、いろいろな人と出会える機会を作っています。同じグループ会社だからといって、所属している会社が違えば、普段話す機会はあまりありません。同じ会社であっても隣の部署の人が何をしているのかわからないこともあります。様々なグループ会社から様々な人が「Zアカデミア」という場に参加することによって、学びだけでなく、お互いやそれぞれの会社について知る機会となり、まさにベースキャンプのようにいろいろな人が集まり交じり合う場にしていきたいと思います。

──ディレクターとして、どのような仕事をしているのですか?

 「Zアカデミア」は学長を含めて、8人で運営しています。それぞれが担当クラスを持ち、それに沿ったプログラムの運営などをしていますが、最終的にはチーム全員で「Zアカデミア」全体の方向性を調整しています。その中で私は、主にグループのトップリーダーが集まるクラスの企画・運営を担当しています。プログラムの企画や運営はもちろんのこと、各グループ会社の担当者とコミュニケーションをとって人や日程、企画の調整をしたり、グループのトップリーダーが集まるコミュニティの運営をしたりなど、多岐にわたります。参加者が参加しやすくなり、参加者同士の横のつながりを深めるために、何でもやります。
 そのためには、参加者がどんなことに悩んでいるのか、Zホールディングスの経営課題は何なのか、社会の状況はどうなのかなど、アンテナを張りながら、日々のインプットは欠かせません。また、Zホールディングス社長の立場だったらどう考えるかなど想像や思考を巡らせながら設計をしていきます。その中には当然わからないこともあるので、人のつてを頼りにいろいろな方を訪ね、直接お話しを伺うこともあります。中には、経営者の方とお話することもあり、考えや想い、大変だったことなどを伺い、設計に活かしています。
 それから、昨年度に試行錯誤した経験も今年度に活かしていきます。仮説を立ててプログラムを受けている参加者をイメージして企画を作っていくので、うまくいくときもあれば、もっとこうしたらよかったなと思うときもあります。実施した後、振り返りを行って次回に活かします。
 他には、「価値観ババ抜き」というものに出合い、私自身がファシリテーター資格を取得し、導入したことがあります。自分の過去と現在を認識し、自身が大切にしている想いをクリアにするプログラムがあるのですが、現在を認識するのに扱っていたテーマがしっくりこなかったことから、もっと良い内容はないかと探していたとき、「価値観ババ抜き」というカードゲームを知りました。これは、自分自身の価値観を明確にするゲームです。自分自身の価値観を言語化して、共有・対話することで、自身が大切にしている想いをクリアにすることができます。同時に、周囲の人たちはどんなことに価値を感じているのかを知ることができ、結果として、お互いを知るきっかけになるものです。
 このように、以前行ったプログラム内容でももっと良くするためにはどうしたらよいかと考え、試行錯誤して、日々進化させていきます。アカデミアが提供するプログラムの中で以前行ったプログラムと全く同じ内容で行うことはそんなにありません。常に進化させていくことを私自身としてもとても大切にしています。
 本当なら対面でのディスカッションの機会も設けたかったのですが、新型コロナウイルス感染症の影響で、昨年度は全てオンラインでの開催となりました。今年度は、状況を見つつ、開催していきたいと思います。

──パフォーマンスの高い「己を知る社員」を育成し、未来のリーダーを創造することが、新しい価値やサービスの提供に繋がっていくわけですね。他に、成果としてはどのようなことがありますか?

 「Yahoo!アカデミア」の実績として挙げられるのは、設立から6年で15人の執行役員を輩出したことです。「次世代リーダーを輩出する」という目的に対して、大きな成果が出せたといえます。また、人材育成をKPI(重要業績評価指標)として測れたらと思うのですが、まだしっくり来る指標を作れていません。それでも、アカデミアで学ぶと、目の色が変わります!これははっきり言えますね。
 今後は、キャリアプランを描くに当たって、「教育で道を作る」ことにもチャレンジしていきたいと思っています。
 例えば、私はもともとエンジニアとしてヤフーに入社しましたが、エンジニアが思い描くキャリア像が狭いなと感じていました。実際には、生涯にわたってそのスキルを高め続ける道もありますし、マネジメントをする道もあります。バックボーンにエンジニアの経験を持ちながら、ビジネスをリードする道もあります。自分が進みたい道を描けば、エンジニアのキャリアも多様にあるのです。私自身もその1人で、バックボーンにエンジニアの経験を持ちながら人事に異動したキャリアを持ちます。
 ただ、エンジニアとして働いただけでは身につけることのできない知識やスキルも必要になってくるので、学びや経験を得られる機会を作っていきたいと思います。このように、社員の才能と情熱を解き放ち、可能性を広げていくことで、Zホールディングスグループ会社全体のスタンダードが向上していくのではないかと思います。だからこそ、社員が成長し続けられる仕組み作りにこれからも携わっていきたいです。
 会社の大小にかかわらず、すぐに結果は出なくとも社員が学び続けられる仕組みを作っていくことは、企業の将来を担うリーダーを育成し、社員のリテンションに役立つという、会社の未来そのものを左右する大きな挑戦だといえるでしょう。

石塚 勝巳(いしづか かつみ)
2007年ヤフー株式会社に新卒エンジニアとして入社後、トップページなどの開発運営に携わる。2016年に人事に異動し、ヤフーの次世代リーダーを輩出する企業内大学の「Yahoo!アカデミア」の運営を手がける。その後、Zホールディングス株式会社に出向し、2万人を超すグループ社員が集う企業内大学の「Zアカデミア」を立ち上げ、ディレクターとして運営企画に従事している。

(文/平井明日菜 写真/上垣喜寛)


このようなコラムをあなたの顧問先と共有しませんか?
『マネジメント倶楽部』はあなたの顧問先にお読みいただく情報誌です。詳しくはこちら↓
税研ホームページ:マネジメント倶楽部

  • PRESSLINKS230921

  • 通信DB インボイス制度関連記事特集

  • 官公庁公表資料リンク集

  • 税務通信テキスト講座

  • 図解でわかる!インボイス制度(11/30まで掲載)

  • 税務通信電子版(アプリ)

  • 経営財務電子版(アプリ)

  • まんが

  • ついった

  • メールマガジン